Google Inc.エンタープライズ部門担当社長 デイブ・ジロード氏 |
12日、Googleは企業向けソリューションの最新情報と事例を紹介する「Google Enterprise Day 2008 Tokyo」を開催。「Googleエンタープライズ・ビジネスのためのイノベーション」と銘打った基調講演では、Google Inc.エンタープライズ部門担当社長であるデイブ・ジロード氏が語った。
Webサーチの企業として10年前にスタートしたGoogleが、5年前から取り組んでいるのがエンタープライズ分野だ。特に近年はGmail、Googleドキュメント等をはじめとするアプリケーション群「Google Apps」によって、企業の業務に深く関わるようになってきている。
「様々なサービスを提供するGoogleは何を考えているのかと言われることもあるが、10年前の創業時に掲げた"世界中の情報を整理し、どこまでもアクセス可能に、便利にすること"という使命は何も変わっていない」とジロード氏は語る。ユーザーの利便性向上を重視するGoogleでは、複雑さを排除し、シンプルに使えることを心がけている。
Google Appsの中で最も知られているものはGmailだろう。1GBのメール保存領域という、当時としては画期的なサービスだけにコンシューマーユーザーが早くから飛びついた。中小企業やSOHOといったスモールビジネス層にも使われるようになったが、大企業の反応は鈍かった。「大企業はバリューを事前に理解するなど、準備に時間をかけた。今では大企業でも使われており、大規模なマイグレーションの事例もある」とジロード氏。
当初は足踏みしていた大企業がGoogle Appsを導入するに至ったのは、クラウドコンピューティングのアドバンテージがあるからだという。従来の手法では、ハードウェアとソフトウェアを購入する必要があるため、ソフトウェアのバージョンアップを待つとともに、コスト面の問題もあり、企業のITの進化は遅かった。「20年前にはオフィスの環境はすばらしいのに家庭にはリモコンがある程度だったが、今では家庭で便利なテクノロジーを利用しているのにオフィスには新しいものがないという状況に逆転している」とジロード氏は語る。
Google Appsは全ての機能をGoogleがホスティングしており、ユーザーはインターネット経由でブラウザを利用してアクセスするため、ソフトウェアの購入やインストールは必要ない。メーカーがバージョンアップをするのを待つ必要もなく、絶えず最新のテクノロジーを利用することができる。
「クラウドコンピューティングによって提供されるGoogle Appsはイノベーションそのものです。ユーザーが使いたいと思うものをワークプレースに持ってきています。強制的に使わせるのではなく、テクノロジーを使いたいと思ってもらえる環境が重要です。また、スピードもクラウドコンピューティングの大きなメリットです。1カ月ほど前は主な機能は53個提供していましたが、現在はすでに60個を超えています」とジロード氏は語った。
新たな機能をいつでも使うことができるというソフトウェア的なメリットに加えて、Googleデータセンターに追加されたリソースを利用することができるため、ハードウェアへの投資を抑えられるというメリットもある。Googleでは各種サービスで要求されるストレージ容量の増加に応えるために、自社でデータセンターを構築している。莫大な費用が投じられているわけだが、ユーザーが増加しつづけることで1ユーザーあたりのコストは急速に低下し、一方で広告による収入が十分に発生しているという。
また、可用性やセキュリティ面でもGoogle Appsにはメリットがあるという。アメリカの調査会社によるメッセージングアプリケーションに関する調査では、一般的なメッセージングアプリケーションと比較してGmailには5倍の信頼性があるとされているものもある。
セキュリティについては、アプリケーションもデータもすべてGoogleのデータセンターに置くことになるため、デバイスの盗難や紛失によって情報流出等が怒る心配がない。Googleドキュメントではドキュメント閲覧者の制限をつけることができるため、添付ファイルの誤送信による情報流出も防ぐことが可能だ。
「全てのシステムが完璧ではありません。しかし、企業が自社で管理するよりは安全です。GoogleはSAS70タイプ2の認証も取得しています。多くの個人情報やクレジットカード情報を扱ってきたGoogleは、世界一のセキュリティチームを持っています」とジロード氏は語る。
マッシュアップによって2つのアプリケーションを組み合わせることにも積極的に取り組んでいる。外部のデベロッパーがカスタマイズ開発できるよう、仕様はApp Entineとして公開されている。 「今後は、企業システムとクラウドコンピューティングの融合に取り組みます。企業システムやデータセンターがなくなるわけではありませんが、今後10年間の大きなイノベーションはクラウドコンピューティングが舞台となるはずです。データがロックインされて競争がなかった時代とは違い、競争が増すことでマーケットが多様化されることでしょう。企業にとって重要なサービスやデータを外部に出すことは怖いかもしれません。その不安を払拭できるよう、Googleは皆さんの信頼を得ていく必要があります」とジロード氏は今後の展開を語った。