買い取り費用は約565億円
富士通株式会社と独シーメンスAGは、11月4日、シーメンスが保有する富士通シーメンス・コンピューターズ(FSC)の全株式を富士通が取得することで合意したと発表した。
今年度中は、現在のまま合弁会社を維持し、2009年4月1日付けで、関係政府機関の承認後、シーメンスが保有する株式を取得し、FSCを完全子会社化する。株式取得に関わる費用は、約4億5000万ユーロ(日本円で約565億円)。新社名については現時点では決定していないが、シーメンスの名が無くなることになりそうだ。
FSCは99年10月、両社が50%ずつを出資するジョイントベンチャーとして発足。設立時に交わされた、10年間の契約の最終年度を来年迎えることになっていた。
IT分野におけるグローバル戦略を加速
独シーメンスが、エネルギー、産業(インダストリー)、ヘルスケアの3分野の事業に集中する戦略を打ち出しており、IT分野への投資を縮小する方針を明らかにする一方、富士通はIT分野におけるグローバル戦略を加速する姿勢を明らかにしており、両社の思惑が一本化した。
富士通グループのEMEA市場における戦略的企業として、欧州向けサーバ、ストレージ、PCなどの開発、生産、販売を担当。サーバ事業拡大の礎を築いてきた実績とともに、なかでもIAサーバ事業の基幹拠点ともなっていただけに、10年目の契約期間終了前に明確な方向が決定したことは、富士通にとっては明らかなプラス要素といえよう。
今回、完全子会社化することで、FSCプロダクトを欧州地域だけでなくグローバル展開するほか、日本のFSCとの重複によるタイムディレイの解消による日本国内マーケットへのタイムリーな製品展開、グローバル統一ラインアップによる価格競争力の強化が可能になるとしている。
また、富士通では、今回の完全子会社化を起点とした改革にも乗り出す考えで、IAサーバのグローバル体制の確立、日本国内のプロダクト販売の拡大、新興国市場への参入とビジネス拡大に取り組む考えを示した。
富士通 代表取締役社長 野副州旦氏 |
富士通の代表取締役社長の野副州旦氏は、「FSCの完全子会社化は、富士通が追求するテクノロジーに支えられた"サービスとプロダクトの両輪"でのビジネスをグローバルに展開する扉を開くもの。これまでは、日本においては、サービスとプロダクトの両輪が実現されていたが、海外では実現されていなかった。富士通の真のグローバル化の第1歩」とする一方、「とくに、IAサーバ事業に関しては、開発、マーケティング力という点で、FSCは大変優れたものを持っている。富士通のIAサーバ事業はFSCに依存してきたところもあり、その裏返しとして、日本向け製品の投入が遅れていたという課題もあった。今後数年をかけて、ドイツにIAサーバ事業の開発、企画、マーケティング機能などを集約し、FSCを中心にしたグローバル戦略の絵を描きたい。日本もグローバルから見たひとつの地域として捉えていくことになる」とした。
IAサーバに関しては、開発拠点をドイツに一本化するが、製造に関しては、台湾、中国のODMを活用。BTOについては、消費者に近いところで対応する考えであり、日本では、福島の富士通アイソテックの製造拠点を活用することになる。
野副社長は、今年8月の経営方針説明会で、グローバル起点での事業展開を実行指針のひとつとして掲げていたが、今回の完全子会社化によって、IAサーバ事業のグローバル化が加速することになる。
レノボへの売却は否定
富士通 富田達夫取締役副社長 |
また、一部でレノボへの売却が噂されている欧州地域におけるコンシューマPC事業については、「そうした交渉の事実はない」と野副社長が完全否定。富田達夫取締役副社長は、欧州におけるコンシューマPC事業が低迷していることを認めながらも、「富士通グループ全体として、海外のコンシューマPC事業をどうするかを、下期に検討していきたい。富士通は海外コンシューマPC事業で攻める体制をとっているわけではないが、利益率を勘案し、改めてプロダクト構成を考えていく」などとした。さらに、野副社長はこれを補足する形で、「FSCにおいては、コンシューマPC事業の改善策にはすでに取り組んでおり、来年4月の完全子会社化までには改善した形にしたい」と語った。
FSCの2007年度の売上高は66億1400万ユーロで、利益は7200万ユーロ。「日本円で約1兆円の事業規模を誇り、フルラインでプロダクトを提供できる企業。さらに、コアバリューはサービスを含めたITインフラ全般を提供できるところにある。R&D部門で約1500人、SEおよびCEで約7000人、製造部門で約1800人の社員を擁し、優れた技術を持っている。ロシアや東欧についても実績があり、富士通が単独でこの市場に入っていくよりは、大きなメリットがある。EMEA市場において、英富士通サービスの2万5000人をあわせて、3万5000人の社員規模となり、これは富士通本体に匹敵するもの。そして、富士通のプロダクトビジネスを成長させることにつながる」(野副社長)と語った。レイオフなどの構造改革は検討していないという。
また、「シーメンスは、当社の顧客としても大変重要であり、今後、新たな事業に進出する上でも協力関係が結べる。これまで以上の関係構築ができる」(野副社長)などとした。
なお、11月3日からFSCの経営体制を刷新。会長には、富士通の海外事業を統括するリチャード・クリストウ経営執行役上席常務が、社長兼CEOには、FSCで、CIO、CFO、CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)を兼務しているカイ・フローレ氏が、それぞれ就任した。 「クリストウは、海外ビジネスグループ長、富士通サービス会長、富士通ノースアメリカ会長を兼務し、決断が早く、論理的である。これまでにもFSCの取締役を務めており、最適な人選である。また、フローレは、FSCの創設メンバーの一人であり、堅実な人間。数年で投資を回収するというビジネスプランを語っており、これに期待したい」(野副社長)とした。