政府・知的財産戦略本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」は29日、第9回会合を開き、これまでの議論をまとめた「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方」と題する報告案について議論した。同案では、公正目的であれば著作物の利用許諾を不要とする「日本版フェアユース規定」を導入する方針が示された。
現行著作権法は「新たな産業創出に萎縮効果」と問題視
知的財産戦略本部では今年3月、「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」を設置。弁護士で西村あさひ法律事務所顧問の中山信弘氏を会長とし、4月~10月計9回にわたりネット時代における著作権制度のあり方について議論。その主要なテーマとして「フェアユース規定」(※)を取り上げてきた。
※「フェアユース規定」=アメリカ合衆国著作権法などが認める、著作権侵害の主張に対する抗弁事由の一つ。著作権者に無断で著作物を利用していても、その利用がフェアユース(fair use)に該当するものであれば、その利用行為は著作権の侵害を構成しないとされる。
フェアユース規定が同調査会で取り上げられた背景には、日本の現行の著作権法が、新たなインターネットサービスなどに対応できておらず、情報通信技術を活用した新たな産業の創出に萎縮効果をもたらしているという問題意識がある。
日本の現行の著作権法では、「私的使用のための複製」「図書館等における複製」「引用と転載」「学校教育番組の放送」など、個別の事例に応じて著作権が制限されるケースを明示している。こうした個別規定に該当せず、権利者の許諾を得ずに著作物を利用する場合は、著作権の侵害となる。
だが、例えばインターネットの検索エンジンの場合、画像や文章などのデータをサーバに一旦複製しておく必要があるが、現行の著作権法に従えば違法と判断される可能性が高い。そのため、検索エンジン企業はサーバを海外に置くなどの対応を迫られている。
もし「公正な利用であれば著作物の利用許諾は不要」とするフェアユース規定が著作権法にあれば、同規定に基づき、検索エンジン企業によるデータ複製を「公正な利用」と裁判所が判断すると、日本国内にサーバが置けるなどのメリットが期待される。
「公正な利用を包括的に許容し得る」規定の導入を提言
今回専門調査会がまとめた報告書案では、以上のような状況を踏まえ、「個別の限定列挙方式による権利制限規定に加え、権利者の利益を不当に害しないと認められる一定の範囲内で、公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入することが適当である」と提言。
さらに、「権利制限の一般規定については、どのような場合が権利者の利益を不当に侵害しない公正利用になるかは、紛争当事者の主張・立証による裁判所の審理を通じて明らかになる」と述べ、一般規定に関する具体的なルールは裁判を通じて事後的に形作っていくとしている。
また、権利制限の個別規定と一般規定の関係については、従来の個別規定を残しながら、「権利制限の一般規定が定められた後も、著作権法の体系においては引き続き、必要に応じて権利制限の個別規定を追加していくことが必要」とし、両者が並存する体系づくりを行う方針を明らかにした。
過去に違法とされたケースも「場合によっては救済」
具体的な条文については、その意味するところを予測しやすくするため、「『公正な利用は許される』のような広範な権利制限を認めるような規定ではなく、著作物の性質や利用目的などを具体的に考慮した規定にする」方針を示した。
報告案について、専門調査会に参加した委員からは、「『権利制限の一般規定の導入にあたっては、これによりこれまで裁判例によって違法であるとされた行為が当然に適法になるものではないことに留意する』などの文章を報告案に追記すべきだ」など、過去の裁判例を無視すべきではないとの意見もあった。
だが、他の委員が「それには反対。一般規定の導入は、現状の著作権法の延長と理解されないことが重要だ」と述べるなど、報告案に基本的には賛同する意見が多く出た。
中山会長も、「過去に違法とされたケースも、場合によっては救われるケースがあるという理解でいいのではないか」と述べ、日本版フェアユース規定に関する報告案は基本的に了承された形となった。
知的財産戦略本部では、これらの議論を踏まえた上で報告案を決定し、パブリックコメントを実施。「年内にとりまとめを行い、これに従い、文化審議会などが具体的な法案化作業を進める」としている。