米Red Herringがスウェーデン・ストックホルムで開催した技術と投資のカンファレンス「ETRE 08」にて9月17日、米Qualcommで欧州地区を率いるEnrico Salvatori氏(上級副社長兼ゼネラルマネージャ)が登場し、今後のフォーカスエリアや競合について語った。
Enrico Salvatori氏 |
特許ライセンスがもたらすイメージ
Qualcommは無線関連特許を所有し、特許のライセンス「MSM」シリーズで知られるチップセットの提供、そしてサービスプラットフォームなどをビジネスとしている。ホスト役のRed Herring会長兼CEOのAlex Vieux氏は、Qualcommイメージが必ずしも良いものではなく、"Everything but Qualcomm(Ebq)"といわれていることに触れる。これについて、Qualcomm自身はどう思っているのだろうか?
Salvatori氏は、「GSMではなくCDMAをサポートしていたという歴史から、特に欧州ではイメージが悪いかもしれない。だが、これは過去の話で、わが社は現在、欧州そして米国でのUMTS実装を支援している」と語る。
「Qualcommをはじめとした国外企業に特許ライセンスを払いたくないことから、中国が独自の3G規格を選んだ」というVieux氏のコメントについては、「特許とライセンスをベースとしたわが社のモデルは批判されることもある」と認める。「Qualcommは研究開発に膨大な投資をしている。この投資を、特許ライセンスから回収するというのがわれわれのビジネスモデルだ」とSalvatori氏。
先日、和解したフィンランドNokiaとの特許係争」については、「特許に関する見解が異なった」と述べる。だが、「双方が納得いく形で和解できたとした。
モバイルブロードバンドとモバイルインターネット
今後3年のQualcommの見通しについては、モバイルブロードバンド、モバイルインターネットにフォーカスしていくという。コア技術のモデムでは、モバイルブロードバンドに大きな投資をしており、消費電力の効率化といったチップセットのノウハウを活用しつつ、機能セットを統合したプラットフォームを提供する。
モバイルインターネットでは、Webアプリケーションがモバイルへ拡大することになり、Qualcommではこれを支援するため、マルチメディアやグラフィック性能を強化していく。「タッチ画面などさまざまなユーザーエクスペリエンスを提供できるプラットフォームを提供する」とSalvatori氏。そのために、ユーザーが望むユーザーエクスペリエンスを実現する機能セットを研究しているという。
今後はノートPC、ミニノートにも拡大する戦略だ。
マルチメディアにフォーカス
新しいフォーカス分野となるマルチメディアについては、最新のチップセット「Snapdragon」を紹介する。ノートPCなどモバイル端末向けで、1GHz動作可能な「Scorpion」プロセッサを搭載する。「無線分野で構築したノウハウを活かした電力消費の改善は大きな差別化になる」と自信を見せる。Qualcommは昨年、CDMAとUMTSの両方に対応する「Gobi」も発表している。
OSでは、「Windows Mobile」の米Microsoft、米Googleの「Android」、Linuxなどをサポートしており、Symbian/S60なども検討しているという。
高い収益性を維持してきたQualcommだが、今後の見通しはどうだろうか? これについてSalvatori氏は、「チップセットでは成功した」と認める。3GPP、3GPP2などの標準化団体に参加し、今後もこの分野で築いた地位を確保する構えだ。近い将来LTEへの移行が始まると「これは我が社、それにモバイル業界全体にとって大きなチャンス」という。
このほかには、マルチメディアを挙げる。NokiaのOvi、Googleの参入などにより携帯電話の利用が進化することが予想されている。「マルチメディアが大きく起爆すると予想している」とSalvatori氏。「性能や機能セットを最適化して強化し、ユーザーエクスペリエンスを改善する必要がある。Qualcommは大きな投資をしており、われわれのチップセットは単なるモデムではない」と続ける。
ファミリービジネスとイノベーション
QualcommはIrwin Jacobs氏が共同設立し、その子供であるPaul Jacobs氏が現在CEOを務めている。ファミリービジネスという点について、Salvatori氏は、「Paulは創業者のビジネスを継続させつつ、ビジネスモデルとロードマップを進化させている。サービスとマルチメディアにフォーカスしており、Qualcommを無線アクセス技術企業からマルチメディア技術企業にプッシュしている立役者だ」と語る。
Qualcommは投資活動としてQualcomm Venturesという部門を持つ。Qualcommのビジネスを技術とビジネスモデルの両方から支援するものだ。イノベーションでは、企業買収より研究開発への投資を重視する姿勢だという。
最後に、Salvatori氏はモバイル端末市場についての見解を次のように示す。「iPhoneはすべてをユーザーエクスペリエンスにフォーカスした端末だ。この点が非常にユニークだった。Appleは今後もイノベーションを続けるだろうが、Nokiaなど既存ベンダには資産と経験がある」 -- iPhoneが注目を集めているが、今後はGoogleなど新規参入、既存ベンダがさらにユニークな端末を提供するだろうという予想を示した。