もう1年以上昔のことになりますが、セカンドライフには「キャンプ」と呼ばれる人寄せサクラのアルバイトがあることをレポートしました。おさらいしますね。このアルバイトは、特定の椅子に座っているだけで1時間で数円程度が稼げるというもの。たくさんの人がいる場所はトラフィックと呼ばれる指数があがり、さらにトラフィックが高くなると検索リストの上位に表示される、というセカンドライフの仕組みを利用した仕事です。検索リストの上位に出てくると、本当のお客さんがやってくるし、トラフィックが高いと貸店舗の料金も10倍ぐらいは違ってきます。そのため、プレイスポットやショッピングセンターのオーナーたちから、キャンプは重宝されてきました。そして、チリも積もればなんとやら。キャンプで得られる小銭を集めるべくプログラムで自動的に動くアバター、つまりボットを大量投入するユーザが登場したり、(オーナー側からは)ボットを排除するチェック機能が付いたキャンプ用椅子が誕生したりと、渋い戦いが繰り広げられるに至っていることをレポートしました。

あれから1年。この業界も、いろんな面で様変わりしました。

正しいボットの使い方

それは、とある某プレイスポットで見た光景です。筆者がログインすると、必ず一定の場所で"おすわり"をし続けている人たちがいました。トラフィックを稼ぐためのキャンプのたぐいであることは確実です。プロとしての直感(何のプロやら……)からその人たちがボットさんらしいことも何となくわかります。でも、従来の歓迎されないボットさんたちとは、明らかに違っていました。このボットさんたちはTPOをわきまえたおしゃれな服装です。従来のダサイかっこうのボットさんとも、パソコンへの負荷をむやみに作り出す流行遅れのコテコテブーツを誇らしげに履いている新人アバターのキャンパーさんとも、風貌が違います。そして何より、キャンプの標識がどこにも見当たりません。彼らは、実は、プレイスポットのオーナーさんが自ら操っているボットだったのです。

ボットさんたちの製造元に取材を申し込むと、快諾してくれたオーナーの某氏は、さっそく最新鋭ボットを見せてくれました。それは、チップを払うと服を脱いでいく、ストリッパーボットでした。どうも、筆者の想像を超えたボットビジネスの世界が広がっているようです。

とにかく、筆者の理解できる範囲で話を伺うと、トラフィック稼ぎのためのボット活用は、キャンプ開設よりも有効なソリューションなのだそうです。素性の知れた行儀のよいボットさんたちに毎日24時間座っていただけるのですから、そうかもしれません。キャンプの表示も不要なので、キャンプで跳ね上げたトラフィックと分かりにくくなります。気になるお値段は、だいたい数千リンデンドルといったところ。

ボットの舞台裏を少し見てみましょう。まず、1台のパソコンで複数のセカンドライフのクライアントを起動して、複数のアバターを操作することは、裏技でも何でもありません。セカンドライフを運営するリンデンラボもその方法を紹介しています。特に、スクリプトが専門のような方なら、動作チェック用に複数のアバターが必須でしょう。ただし、自分のアバターだけでも重いのがセカンドライフですから、いくつものクライアントを開くのは現実的ではありません。ボットのシステムというのは、要するに、軽いクライアントと、セカンドライフ内で自動的に一定の行動を起こすためのスクリプトを合わせたものなのでしょう。

なお、正規に複数のアバターを所有するには、セカンドライフのプレミアム会員になる必要があります。不正なアバターを使用していると、全アバターのアカウント中止措置をとられる可能性もある聞いています。ボットを使うには、セカンドライフを運営するリンデンラボの逆鱗に触れない複数のアバターの調達が必要になります。そして24時間ボットに働いてもらうには、24時間稼働させておくパソコンが必要です。

最新鋭ストリッパーのボットさん。「はーい。わたしはストリッパーのボットよ。チップをくれたらお洋服をぬいであげるわ」とダンスの合間にMCもこなしていました

某氏がCEOをつとめる某社の本社。筆者が取材している間にも、お客さんがやってきました。リアル・アバターのキャンプのゆくすえは……

某氏とは別のボット会社で展示されていたモデル用のボットさん。お店に1台おいておけば、トラフィックもかせげるし、お洋服の展示も効率よく行えます

もうひとつのSEO対策

通りすがりの方のピックをのぞいてみました。ファッション関係の場所がずらりとはいってるのですが、ほとんどがアルバイトとして入れている場所とみうけました

ボット投入の目的が、検索リストで上位へのランクインなら、トラフィックのほかにもうひとつ考えたいポイントがあります。ちょっと前の話になるのですが、セカンドライフで用いられる検索にGoogleが使われるようになりました。そのため、検索リストの順位づけにトラフィックに加えてピックへの登録件数が重視されるようになりました。ピックというのは、それぞれのプロフィール欄にある項目のひとつで、ここには、お気に入りの場所が登録できます。このピックが、Google検索におけるリンクと似たような働きをするらしいのです。つまり、Google検索で、たくさんのページからリンクされてるページが優位なように、よりたくさんピックに登録されている場所ほど検索で有利になるというわけです。

このような検索システムの進歩により、弱小店舗仲間のひとりなどは、自分のピック欄の全部に自分の店舗の場所を入れています。でも、ピックに登録できる数は最大で10カ所。そこで、自分のピックを提供する、というアルバイトの登場です。「私の店舗をピックに登録した人に10リンデンドルをプレゼント、さらに登録者の中から毎月抽選でお一人様に1,000リンデンドルが当たります」といった募集をかけて登録してもらうわけです。登録を確認して登録料金を支払う機能はもちろん、登録と削除を繰り返して不正なアルバイト料をくすねられないためのセキュリティを考えた機材が販売されています。

ピックにこの場所を入れている人にのみ有効なラッキーチェア(ランダムに現れるアルファベットと自分のイニシャルが一致してるときに座ると何かもらえる椅子)。この椅子はゲンナマがプレゼントされます

ボットがセカンドライフを壊す!?

ところで。たとえわずかのお金とはいえ、新人さんにとってキャンプというアルバイトはありがたいものです。筆者もそうでした。そして、二束三文のキャンプをしている間に知り合った人たちが、ある日突然、セカンドライフにお金を落とす側に回っていったのを、筆者は何回も見てきました。そんなキャンプのアルバイトがいっそう厳しいものになっている背景のひとつには、ボットさんの台頭もあるのでしょう。素朴すぎる感想ですが、理由は何であれ、ボットを投入することは、セカンドライフを寒い世界にしていくことのような気がするんですが、どうなんでしょ……。でも、世間ってそんなもんかもね。SEO対策の書籍が書店に並ぶようになる前のGoogle検索は、ずっと使いやすい道具でした。

と、シニカルになるよりは、ボットさんたちの台頭に、ガバナー・リンデンとこのヘンテコな世界の住民たちがどう対応していくのか成り行きに注目したいところです。

「セカンドライフ三面記事」バックナンバー

・第1回 バーチャル"サクラ"を巡る攻防
・第2回 バーチャル不動産ビジネスの正体
・第3回 ヘルプ! 英会話教室の外国人講師にぼったくられる
・第4回 汗と涙で稼いだリンデンドルを"円"に換えたら(泣)
・第5回 或る女の不条理で(ちょい)欲深い日常
・第6回 設定が招いたディスコミュニケーション!?
・第7回 グリーファーの襲撃に筆者は武装も考えた……
・第8回 誤解も愛のうち……妙な日本文化に触れる
・第9回 起業も職業選択も自由なバーチャルワークの魅力
・第10回 ロールプレイングを楽しんでる人たちがいる
・第11回 バーチャルだけど、土地、買いました(1)
・第12回 バーチャルだけど、土地、買いました(2)
・第13回 お祭り見聞録~イケメン元CEOもやって来た!
・第14回 気の合うふたりは、会うし、結婚もする、よね?
・第15回 SL女子によるファッション放談会(その1)
・第16回 SL女子によるファッション放談会(その2)
・第17回 SL女子によるファッション放談会(その3)