ロンドンのクリエイティブ集団「TOMATO」に所属し、Webや映像、 インスタレーションなど、多様なメディアで表現に取り組んでいる長谷川踏太氏が、「.Fes 2008 TOKYO」のステージにて「長谷川踏太 - making mark on a ruler -」と題した講演を行った。

講演中の長谷川氏
撮影:佐藤登志雄

長谷川氏は、講演のはじめに自身の所属するTOMATOについて「Underworldのメンバーを含めてスタッフは10人です。そのうち8人がクリエイティブ関係の仕事をしています。映画、建築、グラフィックと専門家が集まり、基本的にくる仕事は断らず、誰かがやるという感じで進めています。TOMATOは会社ですが、別に社長がいるというわけではなく、みんなで事務所の維持費を支払いながら維持しています」とその独特な会社形態について語った。

また、TOMATOで働く面白さについて「完成を突き詰めないというか、プロセスをそのままデザインとして出したりするところですね。そのため多様性があり、常に変化する形を面白がるという方向性があります」と語った。

TOMATOの仕事では最初、主にプログラミングを行っていたという長谷川氏。しかし徐々に仲間とプロジェクトを経験していくことで、興味の湧く事柄が変化していったという。長谷川氏はそのときの心境の変化を「携帯電話のjavaを使った時計を作ったりもしました。この仕事で面白かったのは、プログラミングスキルよりもアイデアで勝負しなければならないところでした。まだjavaが動き出したばかりの時期で、もの凄く処理の遅いコンピュータを積んだ携帯で、システムを走らせなければならなかったからです。この頃に、アウトプット的な楽しみを知りました」と振り返った。

多くの聴衆が集まった会場の様子
撮影:佐藤登志雄

またWebクリエイターという職業については「Webの仕事は、物理的には辛いことでも、結局はコンピュータが仕事をしてくれるから、受け入れる量がどんどん増えてしまいます。そこが単純な肉体労働と違うところです。精神が追い付いていかず、自分の処理能力を超えた仕事を次々に請けてしまい、夜眠れなくなるなんてケースもあります。僕らがちょうどWebを作っていたころは、犬小屋を作っているような感じでした。自分たちで好きな材料を集めて、自分のコンピュータで最初から最後まで1人で作っていたんです。今は、企業のWebサイトともなると、個人では手出しできない大きな規模になってきています。ひとつのものに何十人も関わるようになっているのです。またWebの階層がどんどん深くなると、高層ビルを建てるのと同じように複雑になってきて、人間の処理できる量を超えた仕事を抱えてしまっているケースもあります」と体験を交えつつ苦労を語った。

最後に長谷川氏は、「伝統的なクラフトマンの仕事では、自分の手で物を作るので、生産量は変わりません。コンピュータで物を作ると短時間で色々な物を無限に作ることが可能です。しかし、体を動かさなくても我々の精神は酷使されているはずです。だから、これからは、クラフトマンの仕事のやり方を、Webデザインの仕事に活かしてみたらどうかと考えたりもします」と語った。クリエイターのための技術論ではなく、仕事へ取り組む姿勢自体に言及した長谷川氏の講演は、観客たちにとって意義深いものとなっただろう。

長谷川踏太

1972年東京生まれ。2000年よりロンドンに拠点を置くクリエイティブ集団TOMATOに所属。TOMATOでは、Underworldのアートワークや、テレビ朝日のロゴ制作などを手掛けている。インターネット広告やコーポレートアイデンティティなどの分野おいて活躍しており、個人でも作品制作や文筆活動を行っている。