次世代エンタープライズ・データセンター構想を担う「z10 BC」
日本IBMは10月22日、次世代メインフレームの新しいミッドレンジ機「IBM System z10 Business Class」(以下、z10 BC)を発表した。IBM System zは、同社が製造/販売しているメインフレームシリーズであり、同製品は2006年4月に発表された「IBM System z9 Business Class」(z9 BC)の後継機にあたる。IBMでは今年2月にハイエンド向けのメインフレームマシンである「IBM System z10 Enterprise Class」(z10 EC)を発表しているが、z10 BCはミッドレンジ向けの構成となっておりより低価格で提供される。
プロセッサユニット(PU)はz10 ECと同じ「Enterprise Quad Core z10」を搭載。ただし、e10 ECが4つのアクティブコアを持つのに対し、z10 BCのアクティブコアは3つとなっている。クロック周波数は従来製品の2.5倍となる3.5GHz。z10 ECの4.4 GHzに比べると若干低速になるが、これはクロック数を制限することで発熱量を抑えることが目的であり、その結果として完全な空冷による冷却を可能にしているとのことだ。
搭載プロセッサ数はz9 BCの最大8個に対して2個追加された最大10個となり、以下の種類のプロセッサからニーズに合わせて選択することができる。ただし、CPsは最大5個までであり、標準のスペアはないためすべてのPCを使用した場合、スペアが付かない。
- z/OS, VM, VSE用汎用プロセッサ(CPs)
- Linux専用プロセッサ(IFLs)
- Javaアプリケーション専用プロセッサ(zAAPs)
- DB専用プロセッサ(zIIPs)
- カップリング専用プロセッサ(ICFs)
- オプション: 追加のシステムアシストプロセッサ(SAPs)
日本IBM システム製品事業 システムz事業部長 朝海孝氏 |
搭載メモリの最大サイズは10月28日出荷モデルが128GB、2009年6月出荷モデルから256GBとなり、これはz9 BCの4倍にあたる。またI/Oパッケージについても、従来はECのパッケージをそのまま1フレームで使用するという構成だったが、z10 BCでは専用設計のパッケージを採用しており、1フレームで最大限のI/O能力を発揮できるという。
日本IBM システム製品事業 システムz事業部長の朝海孝氏によれば、z10 BCのスペックは1台のサーバへのデータセンター機能の集約を目指して設計されているという。同社では次世代エンタープライズ・データセンターの形として、メインフレーム系システムや基幹系オープンシステム、他ベンダーのシステムなど、その内容を問わず1台のサーバマシンへ統合し管理するという構想を掲げている。z10はそれを実現するに足る性能を有するものだと同氏は語る。
必要に応じて処理能力を向上させられるキャパシティ・オンデマンド機能
z10 BCの特徴は高いハードウェアスペックだけではない。大規模統合サーバではスペックレベルの要件だけでなく、高い可用性や高度な仮想化、優れたシステム管理機能などが要求される。そのため同製品には、z10 ECの持つ機能に加えて、プラン・アヘッド・メモリや拡張されたキャパシティ・プロビジョニング、LPAR動的CPU再割り当て、HMCインスタント・メッセージ、STP拡張、High Performance FICON for System zなど、最先端の機能が新たに追加されている。
特徴的なのは拡張されたキャパシティ・オンデマンド機能である。z10 BCではオンデマンドでキャパシティを増減させることができる。同機能にはCapacity Backup(CBU)、Capacity for Planned Events(CPE)、On/Off Capacity on Demand(On/Off CoD)などの種類がある。CBUは低キャパシティで待機していたバックアップ機器が本番環境に移行した場合に、本番機器のレベルまでキャパシティを引き上げるというもの。CPEはシステム移行など災害以外でCBUと同様のオファリングを行うものだという。
特筆すべきはOn/Off CoDで、これはコンピュータの処理のピーク時に1日単位でキャパシティを補充する機能。増加させたいキャパシティは「トークン」という単位で管理され、顧客は購入したトークンに応じてキャパシティを追加することができる。例えば負荷の集中する決算時期にトークンを購入することで、一時的に処理能力を向上させるということが可能とのこと。トークンの購入方法には使った分だけ支払う後払い方式と、先に購入しておき、任意のタイミングで行使する先払い方式が用意されるという。
なぜこのようなことが可能なのだろうか。それは、z10 BCには購入時のモデルにかかわらず、すべて同等のプロセッサが搭載されているからだという。通常時はプロセッサにリミッターがかけられており、購入したモデルごと適切なスペックで動作している。一時的に高い処理能力が必要となった場合には、トークンを購入すればそれに応じてリミッターが解除され、キャパシティは増加する。従来であれば、処理能力を上げたい場合には新しいプロセッサを購入して追加する必要があった。z10 BCの場合には物理的な変更が不要なので、必要なときに必要なだけのキャパシティが確保できるというメリットがあるとのことだ。
日本IBM システムz テクニカルセールス システムズ&テクノロジー・エバンジェリスト 川口一政氏 |
キャパシティ・プロビジョニングは、上記のようなキャパシティのOn/Off操作をポリシーベースで自動化する機能。ワークロードのパフォーマンス状況に応じて自動的にキャパシティを調整できるため、急激な負荷の増大などにも対応することができる。この機能について、同社システムz テクニカルセールス システムズ&テクノロジー・エバンジェリストの川口一政氏は次のように語る。
「これはハードウェアにおいても従量制という料金体系を実現する新しい仕組みです。現在はまだ人が直接管理しなければならない部分が多いが、将来的には完全に自動化することで、顧客が"キャパシティ管理"という話を意識する必要が無いようにしたいと考えています」
日本IBMでは、z10 BCの提供とあわせてサービス面の向上も積極的に行っていきたいとしている。その一環として朝海氏が紹介したのが「システム変更負荷軽減サービス」(コード名"zCT")である。これは新たにサーバマシンを購入した場合に、システム変更にかかる顧客の負荷をできる限り軽減できるサービスを提供しようというもの。システムの変更やバージョンアップに必要なノウハウ、ツール、メソドロジー、テスト環境などを日本IBMから提供することによって、顧客のシステム変更負荷を減らし、最新のITテクノロジの導入を手助けするとのことだ。
このシステム変更負荷軽減サービスは10月22日より、z10 BC自身は10月28日より提供が開始される。