大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(略称:NII)と独立行政法人 情報処理推進機構 IT人材育成本部(略称:IPA)は、産業界と学界が連携することにより、国内のITを担う人材の育成を促進することを目指し、連携・協力の推進に関する協定を締結した。

NIIとIPAが締結した協定の内容は以下の通り。

NIIの坂内正夫所長

IT人材育成に携わる教員の育成・強化。教材の開発とカリキュラムの策定、インターンシップの推進、リカレント教育の推進など。具体的には教員の育成・強化や教材の開発による実践的教育の拡充、産業界のニーズを踏まえた実践的カリキュラムの開発、インターンシップやリカレント教育の推進など、NIIとIPAの連携を通じて、学界と産業界がIT人材育成に関し協力していくための事業を実施していく方針だ。

教材の開発では、今年度に100種のコンテンツを用意する予定で、来年度はさらに増やす意向だ。さらに、産業界の人材を教員として育成する考えもあるが、いまのところは構想の段階で、実現の時期や人数がどのくらいになるかなどの詳細は未定だ。

NIIの坂内正夫所長は「知恵を形にするのが、技術でありソフトウェアだ。若い人たちには夢をもってほしい。業界が連携して、世界で堂々と戦う場も、彼らに見せていきたい。教員の育成、教材作成について、これまで話をつめてきた。協定を機に、責任をもって役割を分担し、人材育成を推進していく。産学が連携しあうことで、1+1が、3にも4にもなるよう、活動していきたい」と語った。

IPA IT人材育成本部の松田晃一本部長

IPA IT人材育成本部の松田晃一本部長は「情報システム分野で、ニーズに応じて、物事をデザインしていくような取り組みは、大学教育の場では少ないのではないか。協定による活動では、そのあたりに期待している。NIIとIPAが、産学の要となって、人つくりのための連携を進めていきたい。人材育成について、産学が積極的に取り組んでいこうという意思を内外に強くアピールすることにも大きな意義がある」と述べた。

今回の協定の背景には、次のような状況がある。ITが急速に発展し、その利用の拡大が進むなか、ITを支える人材は不足しており、人材の育成が緊急の課題として浮上しているものの、教育機関から輩出する人材と、企業が求める人材の理想像は必ずしも一致しない。また「大学側は産業界のニーズを分かってはいるのだろうが、対策については見えていなかった」(NII)面もあったという。

そこで、両者の隔たりを埋めるため学界側、産業界側、関連団体、政府がさまざまな施策に取り組んできた。NIIは大学などの教職員向けの教育研修事業を行い、IPAは情報処理技術者試験やITスキル標準などのIT人材育成ツールを提供してきた。また両者は経済産業省、文部科学省とともに「産学人材育成パートナーシップ情報処理分科会」に参画している。「同分科会」は人材育成に関し大学と産業界の連携・協力を強化するため、産学が連携して双方の対話と取組の場となる。

これまでにも、産学が手を携える場面はあったが課題も抱えていた。坂内所長は「これまでは、大学などの個別的な活動が多かったが、今回は個別に作成された教材の成果を持ち寄るなど、オールジャパンとして行動していきたい」と話す。また、NII教授も務める、本位田真一東京大学教授は「従来の産学のつながりは、いわば、点と点だったが、今回の活動は面と面が接するものとなる。さまざまな大学のシーズと、産業界のニーズを集約し、付き合わせる」と指摘、今回の協力体制が、これまでの活動からは一歩進んだものであることを強調した。