有害情報の"放置"を決め込む悪質なサイトも
総務省は26日、「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の会合を開き、各ワーキンググループで検討中の課題について報告した。報告では、大手ISPから中小サイト管理者までが協力して違法・有害情報対策に取り組む「国民的プロジェクト」案を提示。違法・有害情報対策ガイドラインなどの知識を共有、メンバーの議論の場を設けるとしている。
ネットの違法・有害情報対策では今年6月、少年の携帯電話使用にフィルタリングを義務付けるなどした青少年ネット規制法が成立。これを踏まえ、同検討会では現在「基本的枠組」「自主的取組」「親子のICTメディアリテラシー」「技術検討」の4つのWGに分かれ、具体的方策を討議している。
違法・有害情報対策では、有害情報の"放置"を決め込む悪質なサイト運営者や掲示板運営者に対抗する強力な手立てがないなど、限界感も浮き彫りになってきている。
自主的取組WGの報告では、対策に関わるプレイヤーの範囲拡大と、その「可視化」が必要と指摘。すでに自主的にガイドライン策定などを進めている大手のISPやコンテンツ事業者だけでなく、中小のISPや個人の掲示板管理者にも取り組みを促すべきだとの意見も出た。
具体的には、共通目標として「自主憲章」を掲げ、それに賛同すれば誰でも参画できる「国民的プロジェクト」ともいえる仕組みを提案。同プロジェクトのメンバーは違法・有害情報対策のガイドラインなどの知識を共有、メンバー同士の交流や議論の場もつくる。プロジェクトのイメージとして、地球温暖化防止のための国民運動として2005年4月から始まった「チーム・マイナス6%」が挙げられた。
一方、違法・有害情報対策を技術開発面から考える「技術検討WG」からの報告では、「大手は技術がありコストもかけられるが、これはごく少数。開発した技術は企業にとって営業秘密にも属するものであり、非公開にされてしまう可能性がある」と民間ベースでの自主的取り組みの限界を指摘。公的な研究開発機関が関わり、民間ベースの技術開発を補完・支援していくことを提案した。
「行政庁による送信防止措置命令」の案も
また検討会では、青少年ネット規制法は規制色が薄く、行政の関与も最小限にとどめた内容になっているとの認識も示された。そのため、「ISPなどが削除要請に対応しなくても大きな不利益がない状況が続くことが予想される」との意見も出た。
「違法・有害情報をあえて放置するような悪質なISPやサイト運営者、掲示板運営者に罰則なしで対抗する手立てがない」と懸念する意見もあり、あくまでも「例示」としてではあるが、「行政庁による送信防止措置命令」も報告の中で提示された。
ネット上の違法・有害情報の通報を受け付けている「インターネット・ホットラインセンター」が25日に発表した統計によると、今年上半期に同センターが通報を受けた有害情報のうち1,060件についてISPやサイト管理者などに削除を依頼したが、そのうち28%にあたる298件は削除されずそのまま。
同センターを運営する財団法人インターネット協会副理事長の国分明男氏はこの日の会合で「非協力的なところは少なくなっているが、有害情報については『あれは違法ではない』などといって協力しないところがある」と述べた。
硫化水素自殺に関する発言も相次いだ。京都大学教授の松山隆司氏は「硫化水素の話も元々は科学の話。それが社会状況により有害な情報になる。ものが変わらないのに意味が変わってしまう」と有害情報の判断の難しさを指摘。
マイクロソフト技術統括室CTO補佐の楠正憲氏は「硫化水素のつくり方などは昨年の早い時期から(ネット上に)出てきている。それがテレビで報道されると急激に検索数がアップした。冷静で客観的な調査が必要」と事件を「ネットの功罪」の議論に結び付ける傾向に懸念を示した。
テレコムサービス協会サービス倫理委員会委員長の桑子博行氏は「マスコミと連携し、報道のあり方についても検討していかなければならない」と述べた。
次回は11月上旬の開催予定で、各WGからの最終報告が予定されている。