企業の社会貢献事業として、さまざまな市民活動を実施している企業は多い。そんな中、マイクロソフトが2003年から実施しているのが「女性のためのUPプログラム」だ。母子家庭の女性やDV(ドメスティックバイオレンス)の被害を受けた女性など、社会的/経済的に困難な状況にある女性を対象に、IT研修を通じた自立支援・就労支援を目的とした社会貢献プログラムとして行われている。このプログラムによる成果や課題の報告会を兼ねたフォーラム「格差社会における女性支援のありかたを考える~女性のためのUPプログラム全国報告会」が9月12日、都内で開催された。

マイクロソフト 執行役 法務・制作統括本部長 伊藤ゆみ子氏

2003年の開始以来、これまでNPO法人12団体、自治体3団体とマイクロソフトが連携し、14の個別プログラムを実施してきた「女性のためのUPプログラム」は、2006年からは全国82カ所の女性会館を会員に持つ「全国女性会館協議会」と、全国47カ所の民間シェルターを会員に持つ「全国女性シェルターネット」が提携し、活動を全国へ展開。社会的、経済的な自立が困難な状況にある女性を対象に、就労につながる基礎的なITスキルを身につける「パソコン講座」や、就労の知識やスキルを身につける「就労応援フェア」などを実施している。2008年8月時点で、受講者数は5,153人にのぼり、そのうちの12.9%が受講後3カ月以内にフルタイム労働者として就労を実現しているという。

フォーラムに出席し、「マイクロソフトの社会貢献活動と女性UPプログラム」と題した基調報告講演を行ったマイクロソフト 執行役 法務・政策企画統括本部長で弁護士の伊藤ゆみ子氏は「女性支援プログラムが思いのほかうまくいっている」と評価する。マイクロソフトの企業市民活動の柱のひとつは、IT企業としてデジタルデバイドの解消を図る「デジタルインクルージョン」にあるという。マイクロソフトでは、現在ITの恩恵を享受できていない全世界で約50億人のうちの10億人に対し、2015年までにITの便益をもたらすことを目標に掲げている。

伊藤氏によると、マイクロソフトの考える効果的な社会貢献活動とは、"慈善活動"ではなく、"社会への投資"だという。さらに、戦略的で継続的なプログラム構築のために

  • パートナーシップの重視
  • 持続可能性の確保
  • 他地域/他セクターへの広がり

の3点が意識されている。「一企業で実施するには限界がある。支援終了後も自立的に活動を継続できる仕組み作りや、全国展開が可能なパッケージ化することで効果の拡大を図った」(伊藤氏)。

全国女性シェルターネット共同代表 近藤恵子氏

一方、夫や恋人などパートナーからの暴力被害の相談と支援にあたる、全国女性シェルターネットの共同代表を務める近藤恵子氏は「DV被害を受ける女性のいちばんのカギは就労支援」にあると語る。実際、DV被害を受けて援助を求める女性の6割が生活保護を受けており、平均収入も150万円以下とその水準を大きく下回っているのが現状だ。

近藤氏によると、DV被害から独立を求める女性にとって、ITスキルの取得は単なる就労支援の効果に留まらないという。「DV被害を受けた女性は精神的なダメージも大きい。それがIT技術の取得を通して、自身の新たな能力の発見につながり、自信の回復を早めることにもなる」と近藤氏。また、IT系企業であるマイクロソフトと連携することにより、支援する側の現場のデジタル化が急速に進み、運動を全国的に展開する上での強い後押しとなったことや、地域・行政・民間企業など他団体との連携が深まったという。

今回のプログラムでは、今後の女性支援のあり方やパートナーシップ、企業のあり方を検討する上で大きな意義を持つことを多くの関係者によって語られている。イベントの前に開かれた記者向け説明会では、全国女性会館協議会常任理事で、横浜市男女共同参画推進協議会理事・統括本部長を務める桜井陽子氏は「マイクロソフトが中間支援組織への支援として参加したことの意義が大きい」と強調。同プログラムを担当するマイクロソフト 社会貢献部 部長の竹原正篤氏は「このプログラムは、マイクロソフトが持つITのリソースと、女性支援団体が持つリソースを組み合わせるた、3者共同のプロジェクト」と説明する。

マイクロソフト 社会貢献部 部長 竹原正篤氏

全国女性会館協議会常任理事 桜井陽子氏

イベントの冒頭では、全国女性会館協議会理事長・日本女性学習財団理事長 大野曜氏が「連携関係による女性支援プロジェクトのあり方の基礎となるもの」、国立女性教育会館理事長・神田道子氏が「ひとつの機関でやるには限界がある。いろいろな機関が分担で取り組んでいくことが必要」と、それぞれ賛辞を述べ、プロジェクトの成果を評価した。

また、今回のプログラムではITを活用した起業を応援する「女性企業家支援事業」として、「起業家たまご塾」という講座が横浜市男女共同参画センターで2007年6月から行われている。フォーラムでは、参加1期生10名がすでに起業を実現した成果が報告され、オリジナルのぬいぐるみのネット通販で起業した女性が体験談を語った。