1987年から20年以上続いている「三次元映像のフォーラム」という学会がある。同名の研究会が、年4回行われており、15日には第85回となる研究会が東京大学福武ホールにて開催された。最新の3D映像・画像や立体視、その入出力の技術、システムの話を中心とした学術的な研究発表の場である。

筆者自身は、コアな技術な話を聞き入るまでの技術的な知識はまったくなく、数学の方程式だとか概念だとか、論文全般はほぼチンプンカンプンというのが本音だが、見た目にもわかりやすい「ディスプレイ」の研究や展示には、かなり興味をそそられた。先に感想を言ってしまうと、子どもの頃、大好きだった「飛び出す絵本」が、デジタル世代ではこんな形になっていくんだなという未来予想図が浮かんだ。

型破りなキューブ立体型ディスプレイ

発表プログラムの中では、NICT ユニバーサルメディア研究センターの吉田俊介氏がデモを行った「gCubik(ジーキュービック)」が、従来のディスプレイの形を持たない"型破りな"という意味で面白かった。これは、今年6月にすでに報道発表もされている研究内容で、キューブ立体型のディスプレイの各面に映像を映し出し、それぞれの面から多角的に映像を見ることができるというものだ。

「gCubik」は、液晶ディスプレイ(LCD)と微小な広視野角レンズが並べられたレンズアレイとで構成される。このディスプレイとレンズ板の組を1つの面としてキューブ型に組み合わせ、その内部に立体映像を再現する

従来のモニター画面から飛び出てくるという3Dのイメージではなく、キューブの中にある映像を複数人で手に取りながら見ることができるというのが特徴だ。NICTでは、五感や臨場感を含めた人と人とのコミュニケーション支援のツールを目指して、技術開発を進めているそうだ。ちなみに「gCubik」の"g"は、"Graspable(手にとることのできる)"からきている。

ガラスケースに入った立体映像をみんなで見るというとシンプルに聞こえるが、映像情報を"手に取りながら共有する"というのは、実際ディスプレイのデモに触れて見るとまったく新しい感覚で、不思議な感じがした。

初期段階のデモでは3面実装を実現。その裏側(写真左)とモニター上のデータ内容(写真右)

今回のデモ版「gCubik 」では、この立体映像の再現方法を実証するためのモデルとして、まずは3面実装を実現している。今後は、6面での実装やワイヤレス化、画質の改善などをはかり、3年以内には実用化を目指すという。なお、同デモンストレーションは、9月30日から開催されるCEATECでも出展予定(NICTブース)とのことだ。

「3面というハードルが越えられたことで、原理上完全な箱型にすることは可能である」と吉田俊介氏(独立行政法人 情報通信研究機構ユニバーサルメディア研究センター 超臨場感システムグループ 専門研究員 博士)。かなり近いうちに6面モデルを実現できる見込みとのこと