2009年度から一般販売が開始される家庭用燃料電池システム「エネファーム」。自宅で都市ガスや灯油などから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させて発電し、その時に出る熱で給湯もできる未来型”創エネメカ”だ。優れた環境性能を持っており、家庭部門のCO2排出削減政策のひとつでもある。この最先端機器を導入したご家庭を訪問し、ランニングコストや低炭素性について聞いた。

エネファームって何?→詳しくはこちら

今回取材に応じてくれた埼玉県・Aさんは2006年春、家の建て替えを機に、エネファームを採用した。販売に先立って東京ガスが募集した有償の使用者モニターに応募し契約。10年間で100万円のリース料金を支払った(モニター募集は終了)。動機についてAさんは、「お湯や電気がなければ、家はただの倉庫になってしまうと考え、家づくりの際には設備を重視しました。色々な設備機器を検討する中で、将来は自宅で発電するのが当たり前になると予測し、一般的な給湯器ではなく、30年経っても陳腐化しないと思えたエネファームを選んだ」と語る。

敷地面積:約50坪、延床面積:約40坪、間取り:4LDK、家族構成:3人の埼玉県A邸

1kWの発電ユニット(右)と200リットルの貯湯ユニット(左)。エネファームで全ての電力需要を賄うことはできないため、分電盤は電線にもつながっている。また、貯湯ユニットにはバックアップ熱源機が付属しており、急に大量のお湯が必要になった場合の湯切れを防ぐ。荏原製作所製

3人家族で毎月の電気代は2,000円台の月も!

2年半ほどエネファームで生活するAさんだが、「導入して一番驚いたのは、毎月の電気代が2,000円代で収まってしまう月もある事。建て替えで家自体は広くなったにもかかわらず、一人暮らしをする娘が住む2Kよりも安い月もあるんです」と、ランニングコストの安さに目を見張る。下のグラフは、A邸の電気&熱エネルギーの年間使用量と、エネファームによる供給量。電気に関しては、「季節などによっても異なるのですが、多いときは8割、少ないときで5~6割、平均で7割ほどまかなうことができている」とのことで、電気代が格安の値段に収まっているというのもうなずける。もっとも、A邸はあくまでも一例。後述するAさん一家の生活パターンが、エネファームの運転特性に合っているからこそ、平均約7割というカバー率が実現している。

また、Aさん世帯のガス代には、東京ガスの家庭用燃料電池 専用料金メニューが適用されている。買電量が減る一方で、水素を取り出す元となるガスの消費は増えるが、優遇料金の効果で、全体の光熱費が抑えられているというわけだ。

なお、東京ガスによれば、来年度以降の販売価格・料金プランについては未定とのこと。販売価格については、「従来の給湯器と比較して高額になることは間違いありません。初年度は、"環境ステイタス"を求めるイノベーター層を狙っていきたい」とコメントしている。同社では、来年度の販売開始を前に、Webサイトで資料の予約を受け付け中だ。

次項では、エネファームの環境性について、A邸のケースを紹介していく。

「1人1日1kgのCO2排出削減」をクリア

A邸のケースでは、火力発電された電気とガスを燃焼させてつくったお湯での生活と比較した場合で、1年間に1,892kgのCO2排出削減を実現(2007年、東京ガスの試算による。発電1kWhあたり0.45kg)した。Aさん一家では、日々の暮らしで自然と、環境省が提唱する1人1日1kgの排出削減目標をクリアしていることになる。

このCO2排出削減量は、発電量に従って増えるので、各家庭の生活パターンに影響を受ける。エネファームは、副産物である熱をお湯として有効利用することで高いエネルギー効率を実現しているので、排熱を使いきれないとエネルギー効率・省資源性が低下してしまう。そのため、200リットルの貯湯タンクがいっぱいになると、自動的に発電をストップするしくみになっているからだ。では、発電がストップしないような生活パターンとはどんなものなのか。生活パターンとエネファームの運転特性がうまくかみ合った例といえる、A邸のライフスタイルを紹介しておこう。


起床した時点で発電中
(冷蔵庫と24時間換気システム等で夜間も電力を使用)
夜間の発電でできたお湯で炊事、洗濯、食器洗い機を使用


家族は全員外出。
朝の洗濯/食器洗いで貯湯量が減ったため、
冷蔵庫と24時間換気システムで使用する電気を発電し、
夜の入浴・炊事に向けてお湯を貯める


炊事
昼間の発電でできるお湯を炊事などに使用し
引き続き発電を継続


タンクがほぼ満タンになったところで入浴、
お湯をほぼ使い切る
お湯がなくなり、夜間も発電を継続

なお、Aさんが「自分でエネファームをON/OFFしたり、発電量を調整することはありません。何も気にせずに使っていても、過不足なく発電してくれるというのがスゴい」と語るように、エネファームは電力負荷に追従し、300W~1kWの間で発電量を制御する機能も持っている。

リモコンで毎日発電量をチェック 環境意識が高まった

エネファームの実力は、省コスト性や低炭素性だけにとどまらない。エネファームのパネルリモコンには、電気使用量、発電量と貯湯量がリアルタイムで表示される。この”エネルギー生産と消費の見える化”が、環境意識を高めるようだ。

左上の画面で1.0kWと表示されている部分が発電量で、0.2kWが買電量。右上は発電量と買電量をグラフ化したものだ。電気を消してエアコンを切ると、買電がなくなった(下の2画面)。

「(エネルギー効率と低炭素性の高い)最先端のメカで自家発電しているのがなんともいえずうれしくて、日に何度も見てしまいます」と目を細めるAさん。「知らず知らずのうちに発電していることが当たり前になり、昨年の8月に故障したときには、『エネファームが発電していないから、なるべく電気を使わないようにしよう』という感覚が生まれた」とのことで、毎日の生活で消費するエネルギーの環境負荷を意識するようになったという。

現在、大規模実証事業のモニター募集を終了し、来年度の市販開始を待つエネファーム。政府による補助金額や、ガス会社の販売価格、料金メニューの発表が待たれるところだ。