経済産業省が実施する水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)はこのほど、燃料電池自動車(以下FCV)の車載タンクに従来比2倍の70MPa(700気圧)の水素を充填できる水素ステーションの運用を開始し、報道関係者に施設を公開した。水素貯蔵圧力の70MPa化は、FCV実用化課題のひとつである航続距離を、ガソリン車並みに伸長する有効な手段とされている。ステーションの運用は、さまざまな水素充填手順やコスト、安全性、エネルギー効率などについてのデータ取得などを目的としており、実証試験の継続予定期間は2年間。
また、合わせて70MPa水素貯蔵システムを搭載したFCVの実証試験も開始され、対象車両が披露された。公道を走らせて航続距離の伸長効果を確認するほか、燃費の計測も行われるとのこと。試験の対象となるのは、FCHV-adv.(トヨタ)/X-TRAIL FCV(日産)/SX4-FCV(スズキ)の3車種で、メーカー発表の航続距離はそれぞれ約830km/500km以上/250kmとなっている。
水素ステーションおよびFCVの70MPa化は、米国・ドイツでも進められており、GMとダイムラーの70MPa型FCVが公道走行しているとのことだ。また、日本国内ではFCCJ(燃料電池実用化推進協議会)が先般、国内外自動車メーカー・国内エネルギー企業の合意の下、「燃料電池自動車および水素ステーションの事業化・本格普及を2015年からスタート」というシナリオを発表しており、70MPa化はその重要なステップのひとつと目されている。
エンジニアリング振興協会 戸室仁一氏 |
12日に行われた実証試験開始式では、プロジェクトの実施者であるエンジニアリング振興協会 戸室仁一氏と、日本自動車研究所 渡辺正五氏が報道関係者を前に試験概要をプレゼン。この中で、主に水素ステーション側の試験を担当する戸室氏は、「70MPaを充填するとなると、35MPaでは不要だった工夫が求められる。例えば、水素は高速で充填すると温度が上がる。70MPaを目標値である3分~5分で充填しようとすると、これを冷却するためのエネルギーが必要になり、FCVのwell to wheelでのエネルギー効率が低下する。将来、ECVが普及した際に『自動車の環境負荷軽減』という役割を果たすためには、タンク内温度や冷媒製造で消費するエネルギー量を計測しデータを蓄積、航続距離の伸長という、FCV側の利便性向上とのバランスを検証する必要がある」など、試験の目的を説明した。
この建屋内で都市ガスを高温で水蒸気と反応させ、水素を取り出す。右の建屋は現在開発中の小型高効率機。ステーションにはこのほか、-20℃レベルの冷媒を製造し、ディスペンサー内で熱交換により、充填前の水素を冷却する建屋も |
なお、今回公開された千住水素ステーション(東京・荒川)に続き、12月に横浜・大黒水素ステーション(神奈川・横浜)、09年1月に船橋水素ステーション(千葉・船橋)、同2月に横浜・旭水素ステーション(神奈川・横浜)が相次いで70MPa化される予定だ。