今月もネットでの犯行予告関連の事件が絶えなかった。特に「冗談」とか「騒がせたくて」など、動機が安易すぎるものが目立つ。そのうち、威力業務妨害や脅迫罪では対応しきれずに「犯行予告罪」という法律が制定されるかもしれない。そういえば「決闘罪」も、一時期決闘が頻発したことが制定の一因だったらしい。

2008年7月のネット事件簿 Top10(※)

順位 記事 掲載日
1位 「教頭抹殺したい」、ブログに不満つづって新人教諭免職 - 横浜市教委 7/25
2位 冗談でも……爆笑問題・太田光殺害予告で32歳無職男逮捕 - 警視庁 7/27
3位 「脱獄後に家族と無理心中」「実刑4年で服役」 - スパム王たちの悲惨な末路 7/28
4位 中2女子、「あす5時中学男子を殺す」と書き込み、翌日補導 - 茨城県警 7/24
5位 9歳少女が「下校中に殺す」と書き込み、児童相談所に通告 - 福岡県警 7/9
6位 卒論の恨み……10年経って教授に殺害予告の会社員逮捕 - 愛媛県警 7/4
7位 ブログで決闘提案し返り討ち、少年らの逮捕容疑は「決闘罪」 - 宮城県警 7/16
8位 解雇の腹いせに市のシステムをロック? 容疑者はパスワードを黙秘中 - 米国 7/17
9位 世間を騒がせたくて架空の人物を殺害予告、男子大学生を書類送検 - 警視庁 7/23
10位 「iPhone 3G」発売開始直前狙い、Apple Store装う詐欺メール出回る 7/7
※ 各記事の掲載日(7/1~7/31)から1週間のアクセス数をもとにしています。

29歳新人教諭、採用までに苦労したはずだったのでは?

今回の1位は29歳の男性教諭がブログへの書き込みを理由に免職された事件。逮捕や訴訟へは至っていないようなので、正確には事件とは言わないのかもしれないが。

この事件が他の犯行予告関連事件と違うのは、書き込み先が掲示板でなくブログだったというところ。ブログに仕事の話を書くのは自由だが、普通は個人や職場が特定できないようにぼかして書く人が多いだろう。不特定多数に見せるのが大前提のブログで、ずいぶん短絡的なことをしたものだ。それ以前に人に見せる文章として「死ね」連呼とか「教師殺しがあったら、それはオレです、絶対」などとは、教師でなかったとしても稚拙すぎる。

どういうきっかけでブログを始めたのかはわからないが、最初はきっと「日々の何気ないことや趣味の話なんかを書きたいと思います。ヨロシク!」なんて書いていたのではないだろうか。初心忘るべからずとは言わないけれど、せっかくブログなのだから、教頭らの指導の何が不満でどうしてそう思ったのか、切々と綴ってみればよかったのに。読んだ人に伝わるように一般論化したり、出来事や不満を文章として組み立てていくうちに、冷静に考えることもできたのではないだろうか。

他のランキングを見ても、相変わらず犯行予告事件が絶えない。みんな本気なのだろうか。特に小中学生などの事件を見ると(詳しい事情はわからないので想像でしかないが)、単に語彙が少ないがために不平不満や劣等感が「殺す」に変換されているだけのような印象を受ける。もっと本を読むなりマンガを読むなりして、「追い抜いてやる」とか「見返してやる」とか、歪んだとしても「陥れてやる」くらいのさじ加減があるということを学習してみてはどうだろう。夏休みもあとわずかだ。

決闘と言えばサシで……というのは古いですか?

こちらもブログの使い方を間違った事件。この記事のソーシャルブックマークで「決闘罪」に興味を示すコメントを書かれた皆様に賛同し、決闘罪について調べてみた。

決闘罪の正式な名前は「明治二十二年法律第三十四号(決闘罪ニ関スル件9)」。現行法であり、この法律がなければ決闘そのものは犯罪にはならいということだ。明治22年(1889年)ということは、約120年も前に制定されたもの。これが今もあるというのもすごいが、条文が当時のままというのがまたすごい。

  • 第一条  決闘ヲ挑ミタル者又ハ其挑ニ応シタル者ハ六月以上二年以下ノ重禁錮ニ処シ十円以上百円以下ノ罰金ヲ附加ス
  • 第二条  決闘ヲ行ヒタル者ハ二年以上五年以下ノ重禁錮ニ処シ二十円以上二百円以下ノ罰金ヲ附加ス

決闘を挑むこと自体が犯罪で、実行した者はより重い刑となる、また挑んだほうも応じたほうも罰せられる……これはまあいい。が、罰金が20円~200円! 当時の貨幣価値なら大層な金額になるのだろうが、これは今回逮捕された彼らにも適用されるのだろうか。と思ったら、明治41年(1908年)の「刑法施行法」で重禁錮は有期懲役に変更、罰金は廃止となっているらしい。ちなみに、禁錮というのは懲役と異なり労役が課せられないそうだ。

  • 第三条  決闘ニ依テ人ヲ殺傷シタル者ハ刑法 ノ各本条 ニ照シテ処断ス

決闘で実際に人を殺したりケガをさせたりしたら、刑法の殺人罪や傷害罪が適用されるということだ。今回の事件において当初は傷害罪を適用していたが、ブログへの挑戦状の書き込みがあったために決闘罪容疑での逮捕に至ったという。実際にケガをさせたことが立証されていなくても、決闘に応じた時点で犯罪となるため、集団で行われた乱闘に参加した者をまとめて"決闘罪の容疑"としたのだろう。実際に、現在では暴走族などのいわゆる「タイマン」を取り締まる際に同法が適用されているようだ。

以上、決闘罪について。さて、事件の中身だが、

うざいと言われた被害側グループの少年が、挑発した少年のブログに「決闘しよう」などと書き込んだ。

つまり相手のブログサイトを知っていて、わざわざそのコメント欄に「決闘しよう」と投稿、それを削除することもなく相手側は受けて立った、ということだ。乱暴な言い方になるが、悪い冗談にしか見えないと言ったら同意していただけるだろうか。しかし、彼らは真剣だ。

ブログやプロフへの書き込みをきっかけにした児童生徒らの事件を見るたび、彼らにとってネットの存在感がどれほどのものになっているのか、ということを考えさせられる。各所で言われているネット犯罪対策だけではなく、それ以前の物の考え方や社会での生き方を形成していく上で、未成年者に対するネット利用教育(またはある種の規制)が必要になっているのかもしれない。