東京海上日動火災保険が今年6月までに財務会計システムを刷新作業を終え、決算作業の効率化、証跡の一元管理による内部統制の向上などといった成果を上げている。システム基盤には、日本オラクルのパッケージ製品「Oracle E-Business Suite(EBS)」を採用。IBM ビジネスコンサルティング サービスをコンサルタントとして、約1年という短期間で、旧システムからの移行を実現した。日本オラクルが8月21日に開催した「金融サミット」の特別講演で、東京海上日動火災保険のリスク管理部 課長 中原新氏が同社の取り組みとして紹介したもの。

東京海上日動火災保険 リスク管理部 課長 中原新氏

中原氏は、システム刷新にいたった背景として、ホストシステムを30年あまり使い続けるなかで、ブラックボックス化が進んだことを挙げ、「勘定科目の追加といったシステムの改修作業1つとっても、タイムリーに対応できない状況になっていた。さらに、大きな問題だったのは、決算処理の際に、本帳簿に対して決算仕訳を入れ、翌月にその取り消しを行うといった体制になっていたことだ」と説明。今年度から開始された4半期決算後45日以内の報告書提出に合わせて、急ピッチでシステム刷新を行う必要があったとした。

同氏によると、システム刷新にあたっては、当初「2年かけるべき」とのIT部門側からの認識があったが、今年度からのスタートを急務の課題とし、パッケージ製品を採用することを選択したという。「保険会社にとっての基幹業務をパッケージ製品でまかなえるかとの不安もあったが、データ項目の追加が柔軟に行うことができることが分かり、Oracle EBSの採用を決めた。また、移行にあたって、現行システムの分析が必要になることからホストをサポートしていたIBMをパートナーとして選択した」

東京海上日動の会計システム刷新のスケジュール。金融商品取引法に施行にあわせ1年でのリリースを目標にした。

プロジェクトを進めるうえでは「BPRは行わない」ことをあえて宣言。業務の効率化や決算の早期化などを目的にせず、1年後の2007年8月のリリースとシステムの平行稼働を最優先したという。プロジェクトの推進体制としては、実業務にあたる人員として、経理部門から5人、システム部門から3人を選出。IT部門のサポートのもと、経理部門が主導してプロジェクトを推進する体制とした。

中原氏は、統合前の東京海上火災の情報システム部門出身。経理・人事システムの導入に携わり、その後、調査企画グルーブを経て、リスク管理部へと移った経験を持つ。そうしたことから、IT部門との連携もスムーズだったという。プロジェクトオーナーはIT企画部長と経理部長、プロジェクトリーダーは、経理部と調査企画が務めた。

プロジェクトの推進体制。IT部門のサポートのもと、経理部が主導したプロジェクトになったという

パッケージ製品を基幹業務に適用する際の考え方として、IBM ビジネスコンサルティング サービスの担当者としてプロジェクトにかかわった、ファイナンシャルマネジメント ファイナンス サービス ソリューション リーダー マネージング コンサルタントの古賀弘之氏は、「業務のコアとなる部分は、共通部分としてカスタマイズを施さないようにし、企業ごとの固有部分については、その周辺に作って柔軟に連携させるというアプローチをとった」と語り、今回のケースは、その好例と言えるのではないかとした。また、今回は、中国でのオフショア開発を取り入れ、スケジュールの短縮化とグローバルで最適なシステムづくりへ向けた足がかりにしたという。

IBM ビジネスコンサルティング サービス ファイナンシャルマネジメント ファイナンス サービス ソリューション リーダー マネージング コンサルタント 古賀弘之

導入効果としては、結果として、決算事務業務の効率化や、決算シミュレーションなどを行うことによる決算作業の精度向上、ユーザーのシステム利用証跡を一元管理することによる統制レベルの向上、紙帳票の廃止などが実現できたという。例えば、決算シミュレーションは、本番環境のほかにそのクローンとしてリハーサル環境をつくり、決算やシステム改修の際にシミュレーションを行うもの。これによりテスト作業は大きく改善したという。

もっとも、パッケージ製品ゆえの課題もあった。特に問題となったのは、「内部統制では、本番環境と開発環境を分離しなければならないが、ERPの勘定マスタなどはユーザーが直接登録することになるため、分離が難しかったこと」だ。そのため、開発環境から本番環境にデータを移送する仕組みをアドオンとして作り、内部統制に対応できるようにしたという。

「30年にわたって改修を重ねてきた会計システムを、他社と遜色ないレベルに引き上げることはできた。車で言えば、エンジン部分を載せ替えたということができる。今後は、このエンジンをさまざまな部門への展開するとともに、グローバルでの経営管理も実現していきたい。例えば、連結対象会社の会計帳簿をグローバルで一元管理することなどだ」

システムの全体図。導入効果として、決算事務業務の効率化や、決算シミュレーションなどを行うことによる決算作業の精度向上、ユーザーのシステム利用証跡を一元管理することによる統制レベルの向上などを挙げる。

なお、中原氏の講演は、パネルディスカッション形式で行われたもので、中原氏とIBM ビジネスコンサルティング サービスの古賀弘之氏のほか、日本金融通信社の「ニッキン」事業局事業部で副部長を務める傳田龍一氏、日本オラクルのセールスコンサルティング統括本部Financials SC部で部長を務める大久保享信氏の4人が参加して行われた。

日本オラクルの大久保享信氏は、「金融業界のシステムでは、フロントシステムと基幹システムとが密接に結びついていることから、例えば、ERPシステムも同時に導入しなければならないと思われているケースが少なくない。だが、現在では、システムやアブリケーションごとに切り分けて柔軟に導入できるようになっている」と同社の製品群の特徴をアピールした。