有価証券報告書などの電子開示システム「EDINET」におけるXBRL(Extensible Business Reporting Language)の導入が順調に進んでいる。今年度から義務づけられたXBRL形式での財務諸表の提出件数は、8月14日までに2,700件を超えるなど、特に目立った混乱も見られないという。金融庁 総務企画局で開示業務参事官を務める土本一郎氏が、 8月22日に開催された日本オラクルのセミナー「金融サミット ~ベターレギュレーションによる市場競争力の向上~」の基調講演中で明らかにしたもの。

土本氏の基調講演は、「金融・資本市場の活力増強とXBRLの推進」と題されたもので、同氏は、昨年12月に政府が公表した市場強化プランの概要や、金融・資本市場の競争力強化にXBRLがもたらすインパクト、米国や欧州でのXBRLの動向などに触れながら、XBRLの今後の展望や課題を解説した。

EDINETにおける有価証券報告書とXBRLの対応関係。XBRLは財務諸表本体のみで企業情報や注記などは現状でHTMLとなる

EDINETでのXBRLタクソノミの概要。タグを付与することで財務情報の取り扱いを向上させる

XBRLは、企業の財務情報を迅速に把握し、再利用しやすくすることを目的に開発されたXML形式の言語。米国公認会計士協会を中心に開発され国際標準として普及が進んでいるが、なかでも日本の公的機関での取り組みは先行して実施されてきた経緯がある。例えば、東京証券取引所では、2003年にXBRLの試験採用を開始し、2008年7月からは、決算短信などでXBRLを本格的に導入している。また、国税庁では、2004年から法人税の申告の際に添付する財務諸表にXBRLを採用しているほか、日本銀行でも、2006年から、金融機関からの月次財務報告の中で利用を開始している。

金融庁 総務企画局 開示業務参事官 土本一郎氏

土本氏は、こうした経緯を説明しつつ、市場強化プランの柱の1つ「金融・資本市場の信頼と活力」のなかの取り組みの1つとして、EDINETへのXBRL導入があるとし、金融庁では、2006年からEDINETタクソノミの開発を進め、2008年2月にタクソノミの最終版を公表、3月17日に新システムを稼働したというこれまでの流れを振り返った。

同氏によると、新システム稼働後初となる、第1四半期の財務諸表の提出件数は、8月14時点で2,727件という。XBRL対象範囲は、現在のところ、有価証券報告書などの財務諸表本体(B/S、P/L、C/F)にとどまっており、財務諸表以外の企業の概況、事業の状況、設備の状況といった「企業情報」や、財務諸表の「注記」については、これまでどおりHTMLでの提出となっているが、「予想していたよりも順調に提出が進んでいる」とした。

そのうえで、同氏は、XBRLを導入することによる効果として、投資家やアナリストが効率的に情報分析できるようになるだけでなく、開示企業にとってもインパクトをもたらすことを指摘。「開示企業にとっては、情報提供のための開示から、企業価値と戦略実現のための開示へのパラダイムシフトのカギになる」と強調した。具体的には、個々の取引データ、在庫データ、資産データをXBRL化して管理することで、財務管理などの社内マネジメントの効率化や適正化、内部統制管理の効率化などにつながることが期待できると説明した。

その例として、日銀と金融機関の間で利用されている財務情報の報告スキームの例を紹介。日銀では、金融機関からの報告される財務データをチェックする際に、独自プログラムを使ってデータをXBRLに変換し、数字の間違いを発見、訂正する試みを進めてきた。例えば、売上高が経常利益よりも少ないといった明らかな間違いは、自動的にチェックできるようになっている。さらに、現在では、データ変換ツールとタクソノミ設定ツールを金融機関に配布し、金融機関側でのチェックを支援することで、データの精度を大きく向上させているという。

XBRLを活用例として示された日銀の例。日銀では金融機関向けにXBRLへの変換ツールを配布している

企業における活用例として示された例。図は、富士通におけるシステム構成例

また、企業での活用事例としても、仕訳データ、総勘定元帳、財務諸表などをXBRL化することで、財務諸表上だけではなく、事業拠点別に売上高や売掛金を試算したり、勘定科目と業務プロセスをマッピングして内部統制に役立てたりしている富士通の例などを紹介し、「ITを活用した企業経営の抜本的改革の牽引力として期待できる」ことを強調した。

一方で、土本氏は、米国証券取引委員会(SEC)が8月19日に米国上場企業の財務情報を開示するサイト「EDGAR」をXBRLを採用した新システム「IDEA」へと移行させると発表したことなどにも触れながら、金融庁、国際会計基準委員会財団(IASCF)、米国SEC、欧州委員会(EC)が行っているXBRLの国際的相互運用のための検討会の進捗なども説明した。

「基本仕様については民間団体XBRL International(XII)を中心に標準化を進め、タクソノミ設計や制度設計などについては、各国機関が調整して相互運用性を確保しようと検討を進めている。財務情報の国際的な流通を円滑化することで、企業や投資家のボーダレスな活動を促進し、市場の国際化、活性化を図ることが目的だ」

金融庁、国際会計基準委員会財団(IASCF)、米国SEC、欧州委員会(EC)でXBRLの国際的相互運用の検討を行っている

基本仕様については民間団体XBRL Internationalが中心に国際的な標準化を進めている

ちなみに米国SECでは、2008年12月から時価総額50億ドル以上の大会社に適用(US GAAPのみ、500社程度)、2009年12月から大規模早期提出会社に適用(US GAAP)、2010年12月から国際財務報告基準(IFRS)を含む全開示会社に適用というスケジュールを予定している。

「SECの案では、XBRLを財務諸表本体だけでなく、注記や付属明細書も含めることが特徴だ。相互運用性の確保を図るなかで、今後、EDINETにおいても、対象範囲を注記や付属明細書に拡大させるとともに、臨時報告書や公開買付届出書、大量保有報告書などへの対象文書の拡大、SEC登録企業や外国企業などへの対象者の拡大を図っていく」