さまざまな場でその必要性が議論されているデジタルコンテンツの流通促進だが、著作権の権利処理の難しさなどによりなかなか進まないのが現状だ。そうした中、今年4月に自民党で発足した小委員会では、いわゆる「ネット法」などについて議論がなされている。その中身について、同小委事務局長の牧原秀樹衆議院議員に聞いた。
米国に比べて厳しい日本の著作権法違反への対応
――自民党の政務調査会知的財産調査会に今年4月、「デジタル・ネット時代の著作権に関する小委員会」が設けられましたね。この小委員会設置の目的をお聞かせください。
まず二つの問題意識がありました。第一は、「現在の日本の著作権制度が、米国のヤフーやグーグルのような規模の企業が出現する上での阻害要因になっていないか」という点です。
第二は、ブロードバンドのユーザー数が世界一とも言われるにもかかわらず、こうした人々が創造するコンテンツについて現在の著作権制度が対応しきれていません。こうしたことから、NTTですら使用するサーバを海外に置くといった事態が生じ、みすみすビジネスチャンスを逃していないかという点が挙げられます。
――著作権制度がIT・ネット企業の振興やコンテンツ産業振興の障害になっているということですね。もう少し具体的にその内容を教えてください。
例えば、日本では権利者の承諾を得ていない著作権違反の動画や画像などを権利者が見つけると、著作権法違反として損害賠償請求や刑事罰など厳しい罰則が科せらる可能性があります。
こうした罰則や損害賠償請求のリスクを避けながら映画や音楽などの著作物をネット上に流通させるには、現行の著作権制度だと権利者の許諾が必要です。しかし、著作物には多くの権利者が関わっているため、全員から許諾を得るのが非常に困難です。また、権利者を特定できないケースも多々あるため、ネット上でデジタルコンテンツを流通させるのが非常に難しくなっています。
また、(二次創作物とも言えないような)パロディ的な作品の場合、過去の例を見ても、どこまでが著作権をクリアしどこからが違反となるかが分かりづらい面があります。
これが米国だと、例えばYouTubeなどのユーザー投稿型のサイトにおいて権利者が権利を侵害されているとみなす作品があった場合、デジタルミレニアム著作権法に定められた「Notice&Take down」という規定により、権利者の要請に従ってサイトからまずは削除されます。
この場合、いきなり「著作権違反で罰則」ということではありません。まず削除し、その上で投稿者が削除に異議がある場合は、権利者との話し合いにより解決を目指すという仕組みになっているのです。
つまり、日本では著作権違反とされた場合のルールがなくいきなり罰せられたり損害請求をされたりする可能性があるので、検索エンジンなどを提供する企業がリスク回避のため、海外にサーバを置いたりするというわけなのです。
大学教授や動画投稿サイト経営者らからヒアリング
――なるほど。そうした背景があって、小委員会を立ち上げられたわけですね。
こうしたこともあり、いわゆる「ネット法」(※1)や「フェアユース規定」(※2)の導入について、4月23日から10回にわたり、議論を行ってきました。
※1「ネット法」=今年3月17日、政策研究大学院大学学長の八田達夫氏が代表を務める民間研究団体「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」が開催したフォーラムで発表された、ネット上の著作権を制度的に制限しようとする案。同案では、ネット上の流通に限定した、デジタルコンテンツの使用権(ネット権)を創設。このネット権を、映画製作者や放送事業者、レコード会社に付与し、著作権者は、コンテンツのネット上での使用に対する「許諾権」を制限されるとしている。
※2「フェアユース規定」=アメリカ合衆国著作権法などが認める、著作権侵害の主張に対する抗弁事由の一つ。著作権者に無断で著作物を利用していても、その利用がフェアユース(fair use) に該当するものであれば、その利用行為は著作権の侵害を構成しないとされる。
メンバーは、先日の内閣改造で防衛大臣に就任した林芳正参議院議員を委員長とし、元科学技術担当大臣の松田岩夫参議院議員、伊藤信太郎衆議院議員、私の4人が中心となり、多方面からヒアリングを行いました。
ヒアリングに協力していただいたのは、大学教授などの有識者、JASRACなどの権利者団体、コンテンツクリエイターや芸能プロダクション、ゲーム会社、動画投稿サイトなど関係事業経営者らに来ていただき、話を伺いました。
――総務省情報通信審議会の「デジタル・コンテンツ流通促進のための検討委員会」の第5次中間答申では、権利者らの意見を反映してか、同審議会の「ネット法には反対」との立場を明確に述べていますが、ヒアリングではどのような意見が出たのでしょうか?
ヒアリングに来ていただいた方の2分の1が「反対」、うち3分の1がネット法に「大反対」で、半数近くの方が反対の立場でした。