間もなく夏期休暇。まとまった休みを目前に控え、余った時間を知識に変えるための良書をお探しのエンジニアも少なくないだろう。本誌では、そうしたエンジニアの要望に応えるべく、数回にわたり、各分野のエキスパートが薦める書籍を紹介していく。
今回推薦をお願いしたのは、イオンフォレスト IT部長 兼 総合企画担当部長の新妻貴氏。同社のITシステムを管理するかたわら、社長直轄の総合企画室で中長期ビジネスプランの策定も行う同氏に、ユーザー企業のIT担当者としての視点から夏期休暇向けの学習書を挙げてもらった。
新妻貴
イオンフォレスト 管理本部 IT部長 兼 総合企画担当部長。「THE BODY SHOP」を手掛けるイオンフォレストにおいて経営/IT戦略の策定、遂行に深くかかわる。過去には、システムエンジニアを6年、ITコンサルタントを5年、事業会社のIT担当リーダーを3年半経験。現在は、経営大学院にも通い、CIOとしてのセンスを磨いている。
『図解 直感でわかる 経理の仕組み』、
『「俯瞰」でわかる決算書』
『図解 直感でわかる 経理の仕組み』(著者: 加藤弘道、発行: 東洋経済新報社) |
ユーザー企業のエンジニアは、企業の経営に直接関わる立場に置かれるケースも少なくない。そのため、金がどのように扱われ、どう流れていくのかを知識として入れておく必要がある。新妻氏が最初に薦めるのは、その部分がおさえられる経理関連の2冊である。
『図解 直感でわかる 経理の仕組み』は、そのタイトルのとおり、経理の仕組みを図を交えながら解説している入門書だ。
「私は前職まで、SEとして6年、ITコンサルタントとして5年、事業会社のITエンジニアとして3年半勤務してきた。IT路線でキャリアを積んできたため、経理についてはあまり明るくなく、いろいろな本を読み漁った。その中でこの本は考え方がわかりやすく、私の性に合っていた。経理担当者の頭の中はこうなっているのかと感じた」(新妻氏)
『「俯瞰」でわかる決算書』(著者: 中村亨、発行: ダイヤモンド社) |
もっとも、総合企画室の担当部長を兼任し、中長期のビジネスプラン策定にも携わる新妻氏にとって、入門レベルにあたる同書ではやはり足りない部分もあったという。そこで、より実践的な経理知識を学ぶうえで参考にしたのが『「俯瞰」でわかる決算書』だ。
「この本を読むと、企業が何をしているのかが決算書からわかるようになり、財務諸表を"立体的"にとらえることができるようになる。経営視点の経理本として非常に参考になった」(新妻氏)
視野を広げ、キャリアアップを遂げたいと考えているエンジニアには最適な2冊だろう。
『さあ、才能に目覚めよう』
『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう - あなたの5つの強みを見出し、活かす』(著者: マーカス バッキンガム/ドナルド・O. クリフトン、訳者: 田口俊樹、発行: 日本経済新聞出版社) |
「この本を読んで、自分の特性がわかり、ものごとを肯定的に捉えられるようになった」――新妻氏がこのように紹介するのが『さあ、才能に目覚めよう』である。
同書は、自分の特性を発見するための能力開発本。34種類の"人間の資質"を紹介しており、その中から自分にあった5つの強みを特定することができる。
「この本はイオンフォレストの管理者研修を受講したときに使ったもの。周囲の人と比べながら自分を分析すると、明らかに自分にはあてはまらない資質も見つかる」(新妻氏)
以前は足りない部分も補おうと頑張っていたという新妻氏だが、研修を受けた後は「強みを伸ばし、それを仕事に生かしていくという考え方に変わった」という。
「どの資質も肯定的に書かれているので、ポジティブシンキングにつながる。仕事上は自分に否定的にならないといけない場面もあるが、内面では自分に優しくしていた方が伸びることがわかった」(新妻氏)
なお、『さあ、才能に目覚めよう』の購入者は、専用のWebサイトにおいて質問に答えていくかたちで自己分析ができる。管理者の方は部下の資質を見抜くうえでも役立つだろう。
『図解! あなたもいままでの10倍速く本が読める』、
『3時間熟睡法』
『図解! あなたもいままでの10倍速く本が読める』(著者: 神田昌典、発行: フォレスト出版) |
次の2冊は、イオンフォレストに勤務するかたわら経営大学院にも通う新妻氏が、"1日の時間を増やす"という取り組みに挑戦するうえで参考にした書籍である。
『図解! あなたもいままでの10倍速く本が読める』は、フォトリーディングと呼ばれる速読術を指南する書籍だ。
「こちらの本も、能力開発研修を受講したときに使用したもの。私は飽きやすいタイプで、それまで本をまともに読み終えたことなどなかった。将来のキャリアを考えたとき、この状況を打開しなければならないと思い、速読術に興味を持った」(新妻氏)
とは言え、新妻氏は「この書籍を読んでフォトリーディングが身に付いたわけではない」と話す。では、何に感銘を受けたかというと、「必ずしも前から丁寧に読んでいく必要はないことがわかった点」(新妻氏)だという。
「研修では突然本を渡されて、5分で読み、その内容を周りの人に紹介するという課題が与えられた。当然、前から読んでいたのではできるわけがないので、目次を読んだりパラパラめくったりして、とりあえず紹介できる状態に持っていこうと努力した。この方法でも、あらかじめ目的を持って読んでいればある程度の情報が得られることがわかり、書籍に対する抵抗がなくなった」(新妻氏)
新妻氏は、この読書法を「ぐちゃ読み」と呼ぶ。そのぐちゃ読みを身につけたことで、経営大学院にも通う気持ちになれたそうだ。
『3時間熟睡法 - 眠りのリズムを身につける!』(著者: 大石健一 、発行: かんき出版) |
一方、「以前は常に睡眠欲に駆られていた」という新妻氏が、眠さに騙されなくなれるきっけとなった書籍が『3時間熟睡法』である。
「学習時間を増やしたいと思っていた私は、朝1時間早く起きて勉強できないかと考えるようになった。もちろんこれは簡単なことではなく、たいていは"あと10分"と言いながら2度寝していたのだが、『3時間熟睡法』を読んでからは目覚めがよくなった」(新妻氏)
同書では、眠りのメカニズムが解説されているが、新妻氏はその中でも、「3時間周期で眠りの隙間ができ、そこで起きるとすっきり目覚められる」という部分が参考になったと答える。
「睡眠は、3時間周期なので、その周期から外れた半端な時間は無駄だという。その説明を読んで意識が変わり、無駄な睡眠を省けるようになった。1日の睡眠時間を3時間に抑えられるようになったわけではないが、1日の活動時間が増えたのは確か」(新妻氏)
学生と社会人の2足のわらじを履く新妻氏が多忙な毎日をこなしていけているのは、これらの書籍のおかげと言えるようだ。
『レバレッジ勉強法』
『レバレッジ勉強法』(著者: 本田直之、発行: 大和書房) |
「現在、仕事も、学業も、プライベートも、自分がどれだけこなせるのかを知ろうと思い、1年前とは比べ物にならないほどの量を詰め込んでいる」と語る新妻氏。そのような状況にある氏が、「効率化を追求するうえで参考になった」と紹介した書籍が『レバレッジ勉強法』だ。
「レバレッジ」とは「てこの原理」のこと。通常は金融の用語として用いられ、借り入れなどで資本を増やし、それを運用して利益幅を上げることを意味するが、ここでのレバレッジとは、「少ない労力と時間で大きな成果を獲得する」という意味の、自己投資の用語である。
「効率化は、その場で考えてできるものではなく、生活の中に織り交ぜていく必要があるようだ。例えば、著者の本田氏は、雑誌の切り抜きを人脈構築に生かすために行っているという。"なるほど"と感心させられた」(新妻氏)
そんなレベルの高い"なるほど術"がこの本にはたくさん盛り込まれているという。この夏に変身を遂げたい人にはお薦めの1冊だ。