アビーム コンサルティング 経営戦略研究センター ディレクター 木村公昭氏

アビーム コンサルティングは8月6日、プレスセミナーを開催し、同社がグローバル企業17社のCIO/IT部門責任者に対して行ったインタビュー調査の結果を発表するとともに、同調査結果をもとにした同社の「グローバル最適経営」というコンセプトを披露した。アビームによると、グローバル企業のプロセス/ITのあり方を、「拠点分散」、「リージョン集約」、「グローバル統合」、「グローバル最適」という4つのステージに分類した場合、日系グローバル企業の多くはリージョン集約のステージにあり、課題としては、経営トップのコミットメントの得にくさ、海外拠点に対するガバナンスの弱さ、中央集権的なコントロールの難しさなどを抱えているという。

インタビュー調査の対象となったのは、東証一部に上場する日系のグローバル企業13社と外資系のグローバル企業4社。外資系企業のオラクルとP&G以外は、社名が非公開となっており、業種の内訳としては、14社が製造業(エレクトロニクス4社、輸送機器3社、産業機械2社)、3社が非製造業となっている。同社では、「少数の企業を対象に多面的な定性インタビューを実施することで、グローバル企業が抱えるITガバナンスの課題をあぶりだす」ことを目的にしているという。

グローバル化の各ステージの概念図

グローバル化の各ステージの特徴

発表にあたった、経営戦略研究センター ディレクターの木村公昭氏は、まず、4つのステージの位置づけについて、「ローカル市場への適合という軸と、グローバルスケールの活用という軸で4つの領域に分類した」と説明。具体的には、まず、「グローバル展開の初期段階では、現地のことは現地に任せるとの考え方から、現地に権限を委譲し、分権化された経営のもとで、海外市場を進めることが多い」とし、これを拠点分散のステージとする。次に、拠点分散ではしばしば縦割りの弊害が生まれるため、「グローバル規模での集約化による効率化と統制強化の実現」を目指すリージョン集約のステージに移る。これを推し進めると、「グローバル規模での標準プロセスの採用、ローカルでの例外処理、グローバルでのIT予算の管理」といったグローバル統合のステージに入る。

例えば、オラクルやP&Gは、グローバル統合のステージに分類される。オラクルでは、グローバルでの標準プロセスへ統合するために、グローバルプロセスオーナー(GPO)やグローバルソリューションオーナー(GSO)といった組織を設置したり、3拠点あったシェアードサービスセンターをインドのバンガロールに集約したりといった取り組みを進めた。また、2004年には、ERPをグローバル展開し、シングルインスタンスを実現したことで、買収した企業をすみやかに統合できる仕組みも整備したとする。

また、P&Gは、1999年以降、組織改革を進め、グローバルビジネスユニット(GBU)、マーケットデベロップメントオーガニゼーション(MDO)、コーポレートファンクション(CF)、グローバルビジネスサービス(GBS)で構成する組織に再編した。事業分野別組織のGBU、地域別組織のMDO、機能別組織のCF、共通の間接業務を提供するGBSという特有の組織体制を採用することで、拠点最適からグローバル統合へと進めたかたちという。

「両社に共通するのは、ラリー・エリソンCEOやアラン・ラフリーCEOら、トップダウンのリーダーシップによって、ビジネスプロセスの標準化と集約化を進め、グローバル規模でシングルインスタンスに統合したことだ」(木村氏)

そのうえで、アビームは、このようなグローバル統合に、拠点分散の特徴でもある柔軟性を加えたものが、グローバル最適であると主張する。

「標準プロセスを維持したかたちで個別プロセスに対応したり、シングルインスタンスでありながら柔軟なシステムを構成したりといったように、ローカルへの適合とグローバル統合のいいとこ取りをしたものだ。だが、実現は難しく、調査でもこのステージに該当した企業は1社もなかった」(木村氏)

一方、日系企業の多くは、リージョン集約の段階に留まっている。その理由は、日系企業では、現地への権限委譲を進めてきた経緯などがあり、オラクルやP&Gのようなアプローチは採用しにくいためだという。木村氏は、「戦略、人・組織、プロセス、ITという4つの視点で見た場合、戦略、人・組織の面での障壁が大きいと言える」と分析したうえで、日本型のアプローチとして、「プロセス、ITの変革から着手してグローバル最適を目指す」ことを提案する。

COEとEDGEの領域を示した図

アビーム コンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパル 原市郎氏

プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパルの原市郎氏は、その取り組みの前提となる、グローバル「COE(センターオブエクセレンス)」と「EDGE(エッジ)」というキーワードを紹介。これは、「グローバルでの標準化によって効率化や統制強化などを追求するプロセス領域をCOE、事業や拠点といったローカルでの個別化によって柔軟性を追求するプロセス領域をEDGEとする。そして、事業固有性と地域固有性を2軸として4つの領域に分け、事業・地域の固有性がともに高い場合をEDGEとみなす。それ以外の領域についてグローバル標準化を進める」というアプローチだという。

そのうえで、日系グローバル企業がグローバル最適を実現するステップとして、「まず、ITを統合し、次いで、プロセス/データの標準化によるCOEの強化を進め、最後にEDGEを支える共通基盤を確立することが効果的」とした。また、原氏は、こうしたアプローチは、グローバル企業だけにとどまるものでなく、国内展開での拠点統合や、事業再編などにも適用できるのではないかとも付け加えた。