8月1日、IBMが日本で初となるクラウド・コンピューティング・センター「クラウド・コンピューティング・センター@Janpan」を日本IBM晴海事務所内に開設。同日、記者発表会を開催した。
クラウド・コンピューティングの価値
日本においても注目が集まっているクラウド・コンピューティング。このジャンルにおけるリーダーシップを自負するIBMが日本にも拠点を構えるとあってか、会場は開始前にはほぼ満席状態。多数のマスコミが押し寄せる中、壇上に現れたのはIBMコーポレーション IBMソフトウェア・グループ ハイ・パフォーマンス・オンデマンド・ソリューションズ担当 バイス・プレジデントのウィリー・チゥ氏だ。
同氏によると、クラウド・コンピューティングはビジネス業界を取り巻くさまざまな事象により、日々促進されているのだという。2007年の携帯電話契約者数は33億台を突破し、ブロードバンド接続機能を持つ3Gデバイスは年間30%の増加を成し遂げている。また、インターネットユーザーは加速的増大しており、2011年までに約20億人がWebを使うようになるといわれ、車などに搭載されるスマートデバイスも1兆個の接続デバイスが存在する。
こうした環境の変化により、各デバイスがインターネットに接続する先にあるサーバの電力消費も増え、6年前に比べて12倍になっている。しかし、一方で分散環境にあるサーバの85%が活動していないという状況にあるのだという。「このようなパラダイムが起こっている中、クラウド・コンピューティングへの進展は1600億ドル以上の機会を作り出しているといわれています」とウィリー・チゥ氏はメリル・リンチの言葉を交えてクラウド・コンピューティングの価値を語る。
すでにサンノゼ、ダブリン、ヨハネスブルク、北京にも開設
すでにIBMがクラウド・コンピューティングに着手していたことは知られている。ごく最近ではGoogleと協力し次世代プログラミング・モデルの教育や研究も行っている。「ワシントン大学やマサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、カーネギーメロン大学といったところにスキルを育成するための支援も行っています。単に教育であったり、研究であったりというだけではなく、さまざまなビジネスやコラボレーションといった分野においてもスキルを改善・育成させるという部分にも取り掛かっているのです」とウィリー・チゥ氏。同時に「クラウド・コンピューティング・センターを世界中に開設するということは、クライアントがより自分たちが教授できるメリットというものを深く理解していただく支援につながると思います」と語る。
同氏によれば、クラウド・コンピューティングを構築するにはクラウド・インフラストラクチャーと、クラウド・アプリケーション・プラットフォーム・サービス、そしてクラウド・デリバリード・サービスのオープン・スタンダードな3つの要素が必要なのだという。「堅牢なインフラ、強力なミドルウエアといったものが整備されてゆくとイノベーションが起こせるはずです。例えば、ビジネスパートナーが業界特定のアプリケーションをネットワーク上で提供する、もしくは業界横断的なアプリケーションを提供するといったことができるようになります。これがIBMのクラウド・コンピューティングの中核をなすものです」と同氏は語る。
この取り組みは始まったばかりだが、IBMはすでにサンノゼ、ダブリン、ヨハネスブルク、北京、そして日本とクラウド・コンピューティング・センターを開設、現在稼働中だ。このほかにも世界中に計画中のセンターがあり、IBMとしてはかなる大きな投資をしている。「IBMがセンターを開設してクライアントを支援するということをやっていますが、それに加えてクライアントと一緒に4つのセンターを開設するプランもあります。こういったものを含めてクラウド・コンピューティングを加速させてゆく予定です」と、今後についてウィリー・チゥ氏は語る。
こうした活動のほかに、さらに200名以上の研究者が新しいテクノロジー、オープンフレームワークなどの開発に着手しているのだという。ビジネス業界だけでなく、政府機関や学校などとも協力し、すべての人々のニーズにマッチさせることを目標としているのだと同氏は語る。
産業界に一大パラダイムを引き起こした
エンタープライズ・クラウドについて熱弁をふるう岩野和生氏 |
続いて登場したのは日本アイ・ビー・エム株式会社 ソフトウェア開発研究所 執行役員 岩野和生氏だ。「根本的に大きな必然の流れの中にクラウド・コンピューティングは広まっていると思います。ネットワークやユビキタス環境の広がり、ムーアの法則によるハードウェアのパフォーマンスの進歩などもあり、今後のコンピューティングはサービスというものが非常に重要になってくると考えます」と、クラウド・コンピューティングの必然性について語る同氏。同時に「ミッションクリティカルなものにインターネットは使えないといわれていた時代がありました。しかし、セキュリティやインフラなど様々な問題が解決され、産業界に一大パラダイムを引き起こしたのです。これと同じことがクラウド・コンピューティングにも起こると思います」と将来を予想する。
これにはクラウド・マネジメント・サービスを補強することによって、次世代エンタープライズデータセンターとしてパラダイムシフトを起こすことができると補足。先ほどウィリー・チゥ氏が触れたように、すでに過去の実績からこれが可能になることを実証しているのだという。
同氏は「本日、この場にクラウド・コンピューティング・センター@Japanを開設したわけですが、ここでお客様やパートナー企業と共に設計や技術検証を実施します。新しいやり方もどんどん出てくるはずで、新規実装も行う予定です」と日本におけるセンターの役割を解説。これまで、ハードウェアや環境の整備に数日、あるいは数週間を要したことも、クラウド・コンピューティング・センターを使えば、着いたその場で構築が可能になるのだ。
「クラウド・コンピューティングの可能性を追求するために、クラウド・コンピューティング イノベーション・ワークショップというものを開催します。ここで仕様や実証実験を提供することで、広い層のお客様に新しいイノベーションを起こすことができると期待しています」と同氏。このイノベーション・ワークショップは無償で半日開催され、IBMのエキスパートと顧客による集中討議も行われる予定だ。
クラウド・コンピューティングに期待を寄せるコメントを残した宮辺裕氏 |
最後に登場したのは新日鉄ソリューションズ株式会社 取締役 システム研究開発センター所長の宮辺裕氏だ。「ここで実現できることをお客様の中でやろうとすればかなりの労力が必要になります。しかし、コンピューティング・センターなら構築から運用・保守まで一貫したライフサイクルがすべてサポートされます。これは大きなメリットだと考えます」と同氏。さらにクラウド・コンピューティングは新日鉄ソリューションズの顧客に提供するアーキテクチャにも重大な影響を与えるだろうと同氏は語る。こうしたことからIBMの面々と同じくこのテクノロジーがパラダイムシフトを起こさせるほどの期待を持っているのだという。
この後、実際にクラウド・コンピューティングを用いたデモが行われ、冒頭で紹介したテープカットセレモニーへと続き、記者会見は終了となった。ウィリー・チゥ氏も述べていたとおり、クラウド・コンピューティングは始まったばかりだが、本当にパラダイムシフトを起こせるのか? 起きるとすればどのような変化が待っているのか? 興味が尽きることはない。日本にも拠点ができたことで、ますます活発化すると思われるIBMのクラウド・コンピューティング・センター@Japanの今後に注目してゆきたいと思う。