サイバー大学教授で、コンピュータソフトウェア協会専務理事も務める前川徹氏

30日、SaaS/ASP事業者のサービス連携を推進する「SOABEX研究会」の定例会が都内で開催され、元通商産業省(現経済産業省)情報政策企画室長、現在、サイバー大学教授で、コンピュータソフトウェア協会専務理事も務める前川徹氏が「SaaSの未来を考える - SaaSビジネスの成否を決めるものは何か -」題して、基調講演を行った。

SaaSへの不安は、普及とともに解消する

前川氏は、SaaSに関するアンケート調査では、SaaSへの不安点として、情報漏えい、ネットワーク障害があると使えなくなる点などがよく挙げられるが、コンピュータソフトウェア協会が行った、従業員300以上の企業で、SaaSをある程度理解している人だけを対象にしたアンケート調査では、6割の人が「信頼できるベンダーであれば、自社でデータを持つよりSaaSを利用したほうが情報セキュリティ面で安心である」と答えている結果を根拠に、今後SaaSに対する認知度が上がっていけば、信頼できるベンダーあれば、SaaSを利用したほうが安心だと考える人の割合が増えていくだろうという見解を示した。

従業員300以上の企業で、SaaSをある程度理解している人だけを対象にした「信頼できるベンダーであれば、自社でデータを持つよりSaaSを利用した方が情報セキュリティ面で安心である」という質問に対する回答(出典:コンピュータソフトウェア協会)

ITのコモディディ化とオーバーシューティング現象

また前川氏は、最近のソフトウェアビジネスには、ITのコモディディ化と、オーバーシューティング現象という2つの大きな変化が起きていると語った。

ITのコモディディ化とは、ダウンサイジングによるハードウェアの価格破壊、インターネット、IPネットワークによるネットワークの価格破壊、オープンソースによるソフトウェアの価格破壊という、3つの分野の低価格化だ。これにより市販のDBMSにおいては、Express Editionという無料バージョンを配布せざるを得なくなっているという。

一方、オーバーシューティング現象とは、技術進歩がユーザーのニーズを超えてしまうという現象だ。前川氏は、Windows Vistaを例に、ソフトウェアの機能がユーザーニーズを下回っている間は、新製品を出せばどんどん売れるが、搭載している機能がユーザーニーズを超えてしまうと、過剰性能、過剰機能になると語った。

ITのコモディディ化

オーバーシューティング現象

そして、SaaSはこれら2つの問題を解決する救世主になると述べ、理由として、SaaSのユーザーは提供されるサービスのみに関心があり、プラットフォームを気にしないためオープンソースを利用したシステムの構築を行いやすいという点と、毎月必要な機能だけを提供すれば収入が得られるため、ベンダーはバージョンアップをそれほど頻繁に行う必要もなく、オーバーシューティングにならない点を挙げた。

マルチ・テナント方式のほうがスケールメリットを得やすい

SaaSビジネスの成否を決めるものとして前川氏は、利用者ごとにソフトウェア・バージョンが異なるシングル・テナント方式ではなく、利用者全員が1つのソフトウェア・バージョンを利用するマルチ・テナント方式の採用を挙げた。理由として、マルチ・テナント方式のほうが、保守・運用に関するスケールメリットを得やすいため、ユーザー数の増加比以上の利益の増加が期待できると述べた。

シングル・テナント方式とマルチ・テナント方式

また、Salesforceの収益構造の変化を示し、現状は粗利益の半分をマーケティングとセールス費用にかけていて利益はそれほど出ていないが、今後売り上げが伸びるにつれて、マーケティングとセールス費用の比率が下がり、大きな利益をあげるようになるだろうと語った。そして、利益があがるようになれば、利用料金が下がり、現状大企業中心の市場が、中小企業という新しい市場にも広がっていくだろうと述べた。

Salesforceの収益構造の変化

SaaSとロングテール

ただ、中小企業向けのビジネスを行うには、マーケティングとサポートでの工夫が必要で、インターネットや既存のしくみを活用したマスマーケティングや、あまり説明しなくても使えるようなシステムで、サポートがあまり必要ない、手離れのよいシステムにする必要があると語った。