間もなく夏期休暇。まとまった休みを目前に控え、余った時間を知識に変えるための良書をお探しのエンジニアも少なくないだろう。本誌では、そうしたエンジニアの要望に応えるべく、数回にわたり、各分野のエキスパートが薦める書籍を紹介していく。

今回、推薦を依頼したのは豆蔵 シニアコンサルタントの大西建児氏。10年以上にわたって品質保証活動に携わり、NPO法人 ソフトウェアテスト技術振興協会や財団法人 日本科学技術連盟のSQiP(ソフトウェア品質委員会)で活躍する同氏から、ソフトウェアテスト/品質保証の分野でお薦めの書籍をピックアップしてもらった。

大西建児

豆蔵 シニアコンサルタント。国内電気メーカー、外資系通信機器ベンダーで培ったテストや品質保証などの経験を生かし、テスト手法や技術の普及、発展に取り組む。NPO法人 ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)副理事長。JaSST' 08 東京 共同実行委員長。著書に『ステップアップのためのソフトウエアテスト実践ガイド』(発行: 日経BP社)などがある。『システム開発ジャーナル』において「ソフトウェアテスト考現学」を好評連載中。

『ソフトウェアテスト293の鉄則』

『ソフトウェアテスト293の鉄則』(著者: Cem Kaner/James Bach/Bret Pettichord、翻訳: テスト技術者交流会、発行: 日経BP社)

夏休み向け学習書を推薦するにあたり、大西氏が真っ先に挙げたのが『ソフトウェアテスト293の鉄則』である。

大西氏は、同書を推薦する理由を次のように述べる。

「293のトピックスの中から興味のあるものを"つまみ読み"していけばよいため、気楽に読める。休暇中に読む学習書としては最適」(大西氏)

『ソフトウェアテスト293の鉄則』は、筆者らの経験に基づくテスト関連技術、ノウハウ、提言、教訓などを鉄則というかたちでまとめたもの。テストとはどのような業務なのか、どういう考え方で進めるべきか、といった点も掲載されているため、テスト業務の勘所をつかむうえでも役立つという。

「すでにテスト業務に携わっている方にとってはスキルアップを遂げるうえで、これから携わる方にとっては"とっかかり"の1冊として重宝する。どんなレベルの技術者でもそれなりに得られるものがあるところがこの本のすごいところ」(大西氏)。

大西氏は、「同書を手にして最初に見てほしいのが目次」と語る。「目次では293の鉄則を一覧できるため、見ていて面白い。そして、魅きつけられる鉄則を見つけたら、該当ページを読めばよい。通常の技術書のように前から順番に読んでいく必要はない」(大西氏)。

320ページの書籍だが、意外とコンパクトで「持ち運びもそれほど苦にならない」(大西氏)。旅行や帰省の車中で目を通すのもよいかもしれない。

『ソフトウェア品質保証入門』

『ソフトウェア品質保証入門 - 高品質を実現する考え方とマネジメントの要点』(著者: 保田勝通/奈良隆正、発行: 日科技連出版社)

『ソフトウェア品質保証入門』は、周囲の要望に応えるかたちで発行された書籍だという。

ソフトウェア品質保証を解説した書籍としては、1995年に発行された『ソフトウェア品質保証の考え方と実際 - オープン化時代に向けての体系的アプローチ』(著者: 保田勝通、発行: 日科技連出版社)があったが、「入門者向けにコンパクトにまとめたものがほしいという要望があがっていた」(大西氏)。そこで、同書の著者である保田氏らが、そのエッセンスを抽出するかたちで作り上げたのが『ソフトウェア品質保証入門』である。

保田氏は、日立製作所で長年にわたり品質保証を担当していた人物。日本科学技術連盟のSPC(Software Production Control: ソフトウェア生産管理研究委員会、現SQiP)においても中心的な役割を果たしていた。『ソフトウェア品質保証の考え方と実際』は、保田氏がSPCの知見をまとめるかたちで執筆したもので、「理論に終始することなく、現実を踏まえた良書として有名」(大西氏)とのことだ。

『ソフトウェア品質保証入門』は、その『ソフトウェア品質保証の考え方と実際』から生まれたものだけあり、「ソフトウェア品質保証について何から学べばよいのかわからない、という技術者にはうってつけの入門書」(大西氏)という。

「品質保証とは何か、具体的にどのように活動すればよいのか、といったことがわかるようになる。内容も重すぎないので、暑い中でも読めるはず」(大西氏)。

また、大西氏は、ソフトウェア品質について本格的に学ぶための書籍として『ソフトウェア品質知識体系ガイド - SQuBOK Guide』(編纂: SQuBOK策定部会、発行:オーム社)の名前も挙げる。

「『ソフトウェア品質知識体系ガイド』は、ソフトウェア品質関連技術の総覧として活用できる書籍。『ソフトウェア品質保証入門』で門を叩いた後は、ぜひそちらも読んでほしい」

『ゆとりの法則』

『ゆとりの法則 - 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解』(著者: Tom DeMarco、翻訳: 伊豆原 弓、発行: 日経BP社)

「ソフトウェア業界のリーダ層の方々、もしくはそこを目指す方々にはぜひ読んでほしい1冊」――大西氏がこのように表現するのが『ゆとりの法則』である。

『ゆとりの法則』は、開発プロジェクトを効率的に進めるためのノウハウを記した書籍だ。「ゆとり」「本当に速く仕事をするには」「変化と成長」「リスクとリスク管理」の4章からなり、「急げと言うと遅くなる」など、人間心理も考慮した、DeMarco氏ならではの提言が書かれている。

ただし、「リーダー層に向けた書籍であるにもかからわらず、しゃちこばらない書き方になって」(大西氏)おり、「夏休みにゆるゆると読むのには最適」(大西氏)だという。また、「翻訳も非常にこなれており、読んでいて疲れない」(大西氏)点もこの時期に薦める理由のひとつだ。

さらに大西氏は、同書を手に取り、次のように続けた。

「以前、情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センターが行った『組込みソフトウェア産業実態調査』のレポートに、バグによる手戻りは全開発作業の4分の1に上るという結果が掲載されていた。これは、ちょうど手戻りの分だけ残業している計算になる。したがって、バグをなくせば残業がなくなることになるわけだが、そのためにはテスト/レビュー工程も含めた全工程で"ゆとり"は必要。それを具現化するための参考資料としてもこの本は役立つ」

エンジニアが負のスパイラルから脱出するためにもぜひ読んでおきたい1冊だ。

『ソフトウエアテスト実践ガイド』

『ソフトウエアテスト実践ガイド』(著者: 大西建児、発行: 日経BP社)

「手前味噌ながら……」と恐縮しつつ、大西氏が最後に紹介したのが『ソフトウェアテスト実践ガイド』である。

同書は、大西氏の10年間にも及ぶ経験を基に、ソフトウェアテストにまつわるさまざまなノウハウをまとめたものだ。「タイトルに"実践ガイド"とあり、実践的なテスト技法に絞った解説書に思われがちだが、実際はそうではない。テストを行ううえで具体的に何をすればよいのか、どのような視点で進めればよいのか、といった点から、テスト技術を学ぶうえで最適な書籍まで、テスト業務に必要な事柄を、泥臭い話も込みで解説している」という。

テストの計画/設計/実施/管理といった話題のほか、"テストマスター"を目指すえでの心得や要点なども紹介。付録として、テストツール一覧、トラブル事例、テスト計画書/手順書のひな型も収録しており、実践を意識した作りになっている。

大西氏は、「テスト業務の"感覚"をつかむのに使ってもらえれば」と語り、特に経験の浅いソフトウェア技術者に対して推薦した。

7月29日発売の『システム開発ジャーナル Vol.5』では、大西氏が解説する連載『ソフトウェアテスト考現学』の特別編を掲載。テストの「方法論/手法」および「技法」に焦点を当て、その最新トレンドを解説している。そちらもぜひ参照されたい。