解雇通告を受けたサンフランシスコ市のIT部門で働くエンジニアが、市のシステムのパスワードを書き換えたまま黙秘を続けていた事件が解決した。収監中のTerry Childs容疑者が"信頼できる人物"としていたGavin Newsomサンフランシスコ市長が同容疑者と面会し、直接パスワードを聞き出した。
Childs容疑者はシステムへのアクセス権の監査を強化する上司と衝突し、オフィス内での反抗的な態度を理由に解雇通告された。その直後に市のfiber WANネットワークを管理するパスワードを書き換えて、同容疑者以外による管理者アクセスをブロックしてしまった。同ネットワークは、市職員の給与明細、市のメール、法務記録、受刑者の記録など、市のデータの約60%を扱っている。Childsはパスワードを関係者に伝えるのを拒否。13日にシステムの不正改竄など4件の罪で逮捕されたが、その後も黙秘を続けたため、市システムのパスワードが人質に取られたような状態になっていた。なお同容疑者には保釈金が設定されたが、その額が500万ドル(約5億2500万円)と高額だったのも話題になった。
警察に対して不信感をあらわにしていたChilds容疑者だが、担当弁護士には胸の内を明らかにし始め、その中でGavin Newsom市長を信頼できそうな数少ない人物に挙げたという。その話を伝え聞いた同市長が交渉役を買って出て、ごく一部の関係者に知らせたのみで21日にChilds容疑者と面会した。会話の詳細は明らかにされていないが、約15分の面会を経て同容疑者はNewsom市長にパスワードを伝えたという。すぐには管理者権限を取り戻せなかったが、弁護士を通じて追加情報を得た後に市のシステムは一部を除いて正常に戻った。
Childs容疑者の動機は解雇に対する報復と見られているが、担当するErin Crane弁護士は保釈金の減額を請求する中で、市のIT部門の問題を公にする目的があったと説明している。同弁護士によると、サンフランシスコのDepartment of Telecommunications and Information Services (DTIS) にはシステムを安全に運用するための明確なポリシーがなく、Childs容疑者がシステムを管理・維持できる唯一の存在という状態だったが、システム管理の知識を十分にもたない上司や同僚によって、その責務を果たすのが困難になっていたという。事件ではChilds容疑者がパスワードを漏えいする危険が指摘されていたが、むしろそのような状況を簡単に作り出せる危険性を広く明らかにするのが同容疑者の狙いだったというのだ。
一方サンフランシスコ市警によると、捜査を通じて、fiber WANへの不正アクセスを可能にするダイヤルアップおよびDSLモデムの設置や、コンフィギュレーションデータを消去するno service password-recoveryコマンドの設定が見つかったという。コンフィギュレーションデータはバックアップがなく、消去されれば管理者アクセスをリストアできない状態だった。これらから、市民のためのシステムを私物化していたChilds容疑者に上司が疑問を持ったのが事件の発端になったと見ている。