SAPジャパンは、最新技術を適用した研究開発をパートナー企業、顧客企業とともに行う施設「SAP Co-Innovation Lab Tokyo(略称:COIL Tokyo)」を、東京・千代田区に開設した。ハードメーカー、ソフトベンダー、サービス事業者など、パートナーや顧客企業と協業し、日本市場独自の要求や業界特有の要件に応じたソリューション、プロトタイプの構築とともに、エンタープライズSOAや、グリーンIT、仮想化などの最新技術を具現化するための研究開発の拠点とする。COIL Tokyoは、2007年6月に米国カリフォルニア州パロアルトに最初に開設されたイノベーションラボに続く、SAPとしては、世界で2番目の施設となる。
プロジェクトごとのメンバーシップ制を採用
COIL Tokyoでは、参加パートナー各社が、ハードウェア製品やソフトウェア製品およびアプリケーションを提供、統合された異機種環境を再現し、顧客の実際のシステムをシミュレーションすることが可能で、COIL Tokyoを利用する企業は、異機種混在のテスト環境を自社で用意しなくても、ソリューションの研究開発ができる。ただし、COIL Tokyoでは、プロジェクトごとのメンバーシップ制を採っており、利用する企業は、一定の費用が必要となる。
プロジェクトは基本的に、同社とパートナー、顧客企業による共同開発作業という形式になるが、すでに進行しているものが2例ある。
1つはSAPとインテルによるITエネルギー消費量の削減を主題としたプロジェクトで、最新のクアッドコア インテル Xeon プロセッサー搭載サーバで、SAP ERPを使用する際のエネルギー消費量は、2世代ほど前のシングルコア・プロセッサー搭載サーバに比べ50%以上削減されたという。ここで得られたデータをもとに、昼間の対話型処理と夜間バッチ処理を考慮した一日24時間サイクルでの消費電力の比較シミュレーションも実施しており、結果は公開されている。
2つ目は、同社とヴイエムウェアによる、ERPのアップグレードの評価時間削減の検証だ。マルチコアのインテルプロセッサー搭載サーバを使用し、1カ月かけて検証した結果、現存の物理サーバをアップグレードしながら仮想環境に一元化することが可能であるとともに、本番のアップグレード前にVMwareを利用してテスト実行することで、本番のアップグレードを滞りなく実施することが可能であることがわかったという。検証結果は、ホワイトペーパーにまとめ、Web上で公開しており、パートナー、顧客が、アップグレードを検討する際のガイドとして利用できる。
参加パートナーは、アビーム コンサルティング、インテル、F5ネットワークスジャパン、サン・マイクロシステムズ、テクノスジャパン、デル、東洋ビジネスエンジニアリング、日本アイ・ビー・エム、アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス、NEC、ネットアップ、日立製作所、ヴイエムウェア、富士通、マイクロソフト、三菱電機インフォメーションシステムズ、リアルテックジャパン。
SOAの効果は各方面で発揮
SOAの技術により、アプリケーション開発の手法は標準化され、柔軟性が高くなり、たとえば、ERPでは、全体を構成する各部品が独立的に動くことが可能になって、特定の部品を別のものに取り替えることなどが容易化した。SOA導入以前には、顧客からの要望があっても、業務プロセスがシステムに合わないと、追加開発や、システムにあわせて業務を変えることが必要だったが、SOAにより、部品の組み合わせで対応できるようになり、システムの方を業務プロセスにあわせることが実現した。
SAPジャパンの八剱洋一郎社長兼CEO |
このようなSOAの効果は各方面で発揮されている。SAPジャパンによれば、米国の製造工具卸しのGRAINGER社では、商品を受注する際、部材、在庫を保有する取引先と電話による連絡を取り、これらの有無を確認、確認が取れれば、商品の発送を運送会社にやはり電話で発注していたが、いまでは、SOAを駆使したアプリケーションが採用されており、同社、取引先、運送会社それぞれのアプリケーション同士が「会話」でき、これまでの電話を用いた人手のやり取りは自動化されたという。SAPジャパンの八剱洋一郎社長兼CEOは「このような技術は、今後、いっそう、オートメーション化やネットワークが進行した社会では大きな鍵になるが、これらを発展させるには、多くのさまざまな知識の結集を要する。ハード、ソフトのベンダーなどの知識を仲介できるコアとなるのが、COIL Tokyoだ」と話す。
日本に拠点ができた意味とは
<SAPジャパンは、1997年にテクノロジーコンピテンスセンターを、2006年にはエンタープライズSOAコンピテンスセンターをすでに設置しているが、今回のCOIL Tokyoは一歩進んで、基礎的な技術からアプリケーションまで、実際の製品、サービスに近い「目に見える成果を提供できる」(SAP AG グローバルエコシステム&パートナーグループ エグゼクティブ・バイス・プレジデント ジア・ユスフ氏)ことを目指す。
また、日本に開発の本格拠点ができたことの意味も大きい。海外拠点だけでは、日本市場から発生する独特の要件を、迅速に盛り込むのに時間がかかるが、COIL Tokyoは、そのような課題の解決策のひとつとなる。SAP AG グローバルエコシステム&パートナーグループ ソリューション・コ・イノベーション バイスプレジデント アクセル・ザーレック氏は「日本から出てくる発想を具現化して、新しいイノベーションができる」としている。
SAP AG グローバルエコシステム&パートナーグループ エグゼクティブ・バイス・プレジデント ジア・ユスフ氏 |
SAP AG グローバルエコシステム&パートナーグループ ソリューション・コ・イノベーション バイスプレジデント アクセル・ザーレック氏 |