私的利用を目的とした録音録画機器に課金する「私的録音録画補償金」に関する文化庁での議論が10日、再開した。だが、会議の冒頭でメーカー側が示した「著作権保護技術があれば補償金は不要」との意見に対し、権利者側は「メーカー側も対価の還元で合意したはず」と激しく反論。権利者とメーカーの溝はむしろ深まる結果となった。
「著作権保護技術により補償金は不要」とJEITA
権利者とメーカーの意見の対立が表面化したのは、5月8日に開かれた文化庁の「私的録音録画小委員会」の席。私的録音録画補償金の課金対象に、iPodなどの携帯音楽プレイヤーとHDDレコーダーを加えることが同庁から提案された。
だが、これらの製品に課金されることになるメーカー側は、「縮小することになっているはずの補償金制度が逆に拡大されることになる」と反発。これに対し、権利者側も「メーカーは議論のちゃぶ台返しをしたも同然」と批判。「PCを補償金の対象外にすることに同意するなど、権利者側は最大限の譲歩をしている」と反論した。
結局、権利者とメーカーのこうした意見の違いが、総務省で議論されていた「ダビング10」の実施時期の議論に波及。5月29日に開催が予定されていた文化庁の私的録音録画小委員会が延期されるのと並行して、ダビング10も約1カ月にわたり延期されることとなった。
だが、今回再開された同委員会では、メーカー側の代表を務めるJEITA(電子情報技術産業協会)常務理事の長谷川英一氏が冒頭で、「著作権保護技術が施されている場合には、契約により複製を許諾・制限しているのに等しい状況であり、当然ながら補償は不要」との主張を展開。文化庁が5月に示した案への歩み寄りの姿勢は見せなかった。
権利者側は「対価の還元で合意したはず」
こうしたメーカー側の姿勢に対し、権利者側の代表を務める日本芸能実演家団体協議会 実演家著作隣接権センター運営委員の椎名和夫氏らは猛然と反発。「総務省でダビング10の実施を決めた際、権利者への対価の還元を行うことで合意したはずだが、メーカー側の委員がその時何も言わなかったのはなぜか? 」と反論。
また、「音楽CDの録音に関しては、著作権保護技術があるのに補償金を課すことをメーカーが認めているのはなぜか? メーカー側の論理は矛盾しているのではないか」と疑問を投げかけた。
さらに、日本映画製作者連盟事務局次長の華頂尚隆氏も、「仮に補償金制度を廃止したとして、その代わりに一切のコピーができなくなる状態を考えてほしい。『コピーネバー(ゼロ)』は何も生み出さず、メーカーの録画機も売れなくなる。メーカーは自分たちだけ儲けようとしないでほしい」と訴えた。
「パンドラの箱が空いた」と中山主査
こうした議論の応酬に、権利者とメーカー以外の委員からは厳しい意見が相次いだ。ジャーナリストの津田大介氏は、「権利者の人たちの主張は、消費者がどういう形で視聴するかを権利者側で決めようとしているように聞こえ、時代錯誤だ。消費者は、著作権保護技術があれば補償金は不要、補償金があればコピーは自由、のどちらかの選択肢を望んでいる」と発言。
弁護士で中央大学法科大学院客員教授の松田政行氏は、「JEITAはもう少し柔軟になってはどうか? 補償金は不要とするJEITAの著作権法の解釈は一般的なものではない。今回の議論はこの委員会でまとめるという方向で考えてほしい」と注文を付けた。
会合の最後に、委員会の主査を務める西村あさひ法律事務所顧問の中山信弘氏が「パンドラの箱が空いたようだ」とつぶやくと、傍聴席の多くから苦笑が漏れた。
今後の議論に向け、文化庁案に対するメーカー側の譲歩はあるのか。議論は再開したものの、予断を許さない状況にあるといえそうだ。