7日から9日まで、ソウル市主催の「2008 世界電子政府市長フォーラム」が開催された。世界35カ国の都市の市長および代表者が参加し、電子政府に関する現状報告や未来のビジョン、今後の協力について話し合うという席だ。

e-Goverment宣言、そして2010年総会開催

開幕式では、ソウルのオ・セフン市長による挨拶と、国連のパン・ギムン事務総長による映像メッセージ、Nicholas Negroponte氏による基調講演が行われた。

パン事務総長は電子政府について「効率的かつ透明性を増進し、市民の生活の質を向上させた」と評価。「世界が直面している課題の解決に、革新的な役割を果たしている」と述べ、今回のフォーラムの成果に期待を示した。

その後、世界各都市が現在実施している電子政府の事例紹介が行われ、お互いの都市の取り組みについての情報交換を実施した。各自治体が先端の取り組みや今後の課題などを発表する中で、35都市の代表は相互協力の必要性を認識しているようだった。最後に、電子政府の交流協力増進のための具体的実践的な取り組みとして「ソウル e-Goverment宣言」が採択され、フォーラムが締めくくられた。

同宣言は、次の大きな3つからなっている。

  1. 電子政府推進過程での多様な経験を共有し、交流を促進するため、世界都市間の電子政府運用に必要な事項に対して相互協力する

  2. 持続的な都市発展のため、デジタルの力量を強化し、情報技術を利用して、安全で便利な都市を作っていく

  3. 普遍的デジタル生活様式拡散のため、都市間の情報格差解消に努力する

そして、この宣言の達成のため、ソウルに事務局を置く「世界電子政府協議体」が発足。同協議体では、電子政府の優秀モデルの発掘や共有を行うほか、デジタルデバイドの解消に取り組み、電子政府専門家の育成なども行うことになっている。また、2010年に創立総会を開催することも決定した。

フォーラムには、ソウル市のオ・セフン市長をはじめ、横浜市、台北市、フランクフルト市、サンフランシスコ市、アンカラ市、カトマンズ市、テヘラン市など、数多くの市長やそれに次ぐ人々が参加し、情報・意見交換を行った

ソウル e-Goverment宣言を読み上げる、ソウルのオ・セフン市長

現状の問題を解決する鍵は「教育」

今回のフォーラムでもっとも注目されていた行事の1つとして、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの設立者である、Nicholas Negroponte氏による基調講演があった。

Nicholas Negroponte氏といえば、「100ドルPC」の提唱者として有名だ。今回の基調講演ではこの100ドルPCについて、その理念や活動内容、今後の展望について説明が行われた。

Negroponte氏 は開口一番「我々は厳しい状況におかれている」と一言。食料や原油価格の上昇により、暮らしにくさが増しているというのだ。この「何かしなければ後退する」(Negroponte氏)といった状況を打開する方法として、同氏が第一に掲げたのが「教育」だ。子どもへの教育を充実させることが、20年後、30年後を平和にするというのだ。

そのため、発展途上国も含むすべての子どもたちにパソコンを提供する取り組みが行われている。そして、貧困のために教育機会が与えられない子どもたちにもパソコンを提供することにより、教育機会となるようにしたいとの思いで設立したのが、非営利団体の「OLPC(One Laptop Per Child)」だ。OLPCでは、貧困のために学校すら通えない子どもたちに対し、積極的にパソコンを配布。原則として、それを自宅に持ち帰らせている。カンボジアでは、100ドルPCを与えられた貧困層の子どもたちが、最初に覚えた英語は「Google」だったという。

カンボジアでは当初、100ドルパソコンを子どもが自宅に持ち帰ると両親が「高いものだから触ってはいけない」と諭したというが、OLPC側は「壊してもかまわないから、子どもに使わせて欲しい」と頼み込んだという。こうしてパソコン利用が進み、さらに人口衛星を活用したWi-Fiを利用したネットワークにつながるようになると、子どもだけでなく村全体に広まり、さらに別の村からも子どもたちが集まってきて、次々と広がっていったということだ。

しかし、インフラの整っていない貧困地域ならではの問題もあった。それは電源さえ備えていない地域があることだ。そのため100ドルパソコンの消費電力は2ワットに抑えられているほか、1時間で20ワットの電力を蓄える能力も備える。また、ノートPC同士でコミュニケーションができるように、画面の両脇に角のようなアンテナがついており、ネットワーク接続できるのも特徴だ。カラーは白と黄緑からなる。100ドルパソコンを配布したナイジェリアの学校では、壁の色をパソコンの色に変えたという逸話もある。

100ドルパソコンに対しての思いを語るNegroponte氏

価格に課題残る

ただ、やはり100ドルPCの価格に対する懸念は多いようだ。というのは、100ドルPCとは言いながら、実際の価格は190ドル台となってしまっているからだ。

当面の目標としては75ドルまで価格を引き下げ、最終的には0にすることを目指しているようだ。しかし「原材料価格や人件費が上がりつつあり、100ドルという価格が実現するか分からない」と、Negroponte氏は厳しい見方をしている。

今後何をすべきか、という方向性についてNegroponte氏は、eBookの重要性を挙げる。たとえば、中国やブラジルでは本に使う費用が年間で19ドルのみという事実もあり、支援の必要性が高まっている。だからこそ100ドルパソコンでは、eBookを見られるようにすることが大切だとの考えに至っているという。そしてNegroponte氏は、100ドルパソコンが自国語で提供されることも必要だと強調する。

ちなみに現在は「30カ国語で提供中」(Negroponte氏)だといい、中でもナイジェリアやブラジルでは100万台のPC普及させた実績があるという。このほかにリビア、パキスタン、タイ、アルジェリアなど、さまざまな国で100ドルパソコンの普及に尽力している。

さらにアメリカやカナダにおいては「1つを与え、1つを得る(Give One, Get One)」というプログラムも実施。これは300ドル以上を支払って2台のパソコンを購入した場合、そのうちの1台は発展途上国に配布するというものだ。

OLPCの活動は、実際には決して順風満帆に進められているわけではない。その根源は、前述の価格的な問題に集約されるようだ。発展途上国の子どもたちへの配布ということで、安価に提供されることが大前提であるにも関わらず、現時点では予定を大幅に上回る価格になってしまったことで、導入を見送る国も出てきている。

しかしNegroponte氏が言うように、現在世界が直面しているさまざまな問題を解決する策が教育であるならば、100ドルパソコンの導入は急務である。1人1台のパソコンを実現するには、単に機器の単価を下げるだけでなく、Give One, Get Oneのような多様な寄付の方法を考え出す必要性もありそうだ。

それにしても発展途上国の子どもたちがパソコンに触れるという革新的な体験を通し、世界がどう変わっていくのか、パソコンを1人1台導入した先に何があるのか、今後が大変楽しみなプロジェクトである。

「これまでパソコンを作ってきて、eBookが重要ということを学んだ」というNegroponte氏。次のOLPC発のパソコンとして、スライドで見せたようなモデルを企画しているという