気象庁は、ケーブル式常時海底地震観測システムの敷設を7月6日から開始するのにあわせて、海上で敷設作業を行う敷設船「すばる」の内部を報道関係者に公開した。
気象庁では、東海地震・東南海地震の想定震源域の海域における地震観測強化を目的に、2003年度から新たなケーブル式常時海底地震観測システムの開発に着手しており、このほど、NECが作業施工者となり、既設の東海沖常時海底地震観測システムの西側に敷設する。
東海地震、東南海地震が想定される震源域における地震活動の詳細把握、緊急地震速報での地震発生早期検知、地震動予測精度の向上のほか、津波の早期検知、津波予測の高精度化などが見込まれる。
海底地震観測システムは、総長220kmのケーブルに、海底地震計装置5台、津波計装置3台を組み合わせたもので、深さ1,000mから2,000mの海底観測点に配置。それぞれの機器から得られたデジタル情報を光ファイバの海底ケーブルで、静岡県御前崎の御前崎測候所にある海岸中継局を経由して、NTTのフレームリレー網を利用し、地上の気象庁本庁および大阪の中枢局装置に、24時間リアルタイムにデータ伝送する。
海底に地震計および津波計を設置することで、海底地震や津波の情報を陸の観測点よりも早く捕捉できることから、緊急地震速報に生かせるという。「100kmの海域で地震や津波が発生した場合、地震では陸に達するまで20秒程度、津波では10数分程度、事前に捕捉することができる」としている。
5台が設置される海底地震計装置は、センサー部に加速度型地震計と速度型地震計の2種類の地震計を搭載。それぞれに上下動地震計が1基、水平動地震計が2基搭載されている。水平を維持することが必要となるため、遠隔操作によって、水平を保つように設定する。
3台が接続される津波計装置は、圧力の変化を海底で測定し、海面の上下変化を検知する仕組みとなっており、検知するための圧力センサーは、圧力検出水晶、圧力参照水晶の2つの水晶発振器から構成されている。
今回の新たな海底地震観測システムの敷設により、東海沖の海底観測設備は、地震計装置9台、津波計装置4台の体制となり、東海・東南海・南海地震などの海溝型地震の監視強化に貢献できるとしている。
気象庁では、3日午前に出港式を行った後に、敷設船「すばる」が御前崎を目指して、横浜を出港。6日早朝から、敷設作業を開始する。まずは、敷設船からケーブルを繰り出し、ロープを複数の小型作業艇が牽引して渚に到達。そこから、ウインチとブルドーザーでケーブルを牽引して、陸上の御前崎測候所の海岸中継局とを結ぶ。ダイバー数十人が補助作業を行うほか、敷設作業をスムーズに行うため警戒船を運行するなど、約100人体制での敷設作業となる。その後、敷設船が海上を時速1ノット程度の速度で運行し、ケーブルを海底に埋設する。
すばるは、海底にケーブルを埋設する溝を掘りながら、その溝にケーブルを敷設することになる。ケーブルは、船体下方のケーブルタンクに置かれており、ここから海へケーブルを送り出す「リニアケーブルエンジン」を使い、ケーブルトラフと呼ばれるケーブルの通路を通して、海底に流す。リニアケーブルエンジンは、ケーブルや海底部機器を傷めないよう、ゴムタイヤでケーブルや海底部機器をはさむ構造となっている。ケーブルを送り出す船尾には、埋設器が設置され、これで海底に溝を作ることになる。全長220kmの敷設作業が終了するまで約2週間かかるという。
ケーブルタンクから海へケーブルを送り出す繰出し制御装置である「リニアケーブルエンジン」は、ケーブルや海底部機器を傷めないよう、ゴムタイヤでケーブルや海底部機器をはさんでいる |
ドラムエンジンも、ケーブルタンクから海へケーブルを送り出す繰出し制御装置。通常の通信用光ケーブルの敷設作業では利用するが、今回の敷設作業では使用しない |
敷設後には、海底地震計装置と津波計装置の海底部機器の設置場所を確認するために、ROV(Remotely Operated Vehicle)と呼ばれる遠隔操作が可能な水中ロボットを活用する。ROVに搭載しているカメラで確認し、設置場所の緯度経度なども正確に把握することになる。
一方、装置を供給するNECは、1979年に、日本で初めて気象庁の東海沖のケーブル式常時海底地震観測システムを供給以来、周辺海域7か所に敷設している観測システムのすべての設計から敷設までを行ってきた実績を持つ。「納入したシステムは現在まで無事故であり、貴重なデータを地上の観測センターに送り続けている」という。今後、同システムを海外にも展開することで、世界の地震観測に貢献させたいとしている。