総務省の情報通信審議会はこのほど、デジタル・コンテンツ流通促進などに関する中間答申を公表、1日から意見募集を開始した。同答申では、著作権者の権利を制限し、ネット上のコンテンツ使用の権利を事業者に与えるとする「ネット法」への反対姿勢を明確化しており、どのような意見が寄せられるかが注目される。
「デジタル・コンテンツの流通促進」がテーマ
意見募集を開始したのは、「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」に関する中間答申。
2001年、2004年、2007年に総務省が情報通信審議会(会長・日立製作所会長 庄山悦彦氏)に対して行った諮問に対しての第5次中間答申という形をとっており、同審議会の中の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」での議論をまとめた内容となっている。
同答申では、「デジタル放送におけるコピー制御ルールとその担保手段の在り方」を第1章とし、先日開始日時が決まった「ダビング10」などについて記載。
注目されるのは「コンテンツの取引市場の形成と、取引の活性化に向けて」と題された第2章の第2節「検討の経緯」。この中では、現在民間で議論が行われている「ネット法」に関する同審議会の反対姿勢が明確化されている。
「ネット法」とは?
ネット法とは、今年3月17日、政策研究大学院大学学長の八田達夫氏が代表を務める民間研究団体「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」が開催したフォーラムで発表された、ネット上の著作権を制度的に制限しようとする案。
デジタル・コンテンツ配信サービスが日本で普及しない最大の原因を、「著作権の権利作業の負担にある」とし、これを解決するため、ネット上の流通に限定した、デジタル・コンテンツの使用権(ネット権)を創設。このネット権を、映画製作者や放送事業者、レコード会社に付与し、著作権者は、コンテンツのネット上での使用に対する「許諾権」を制限される。
これにより、ネット権を付与された放送事業事業者などはネット事業者と契約することで自由にデジタル・コンテンツのネット配信などを行えるようになる。著作権者は許諾権を制限されるかわりに、「報酬請求権」に基づき、ネット権を持つ事業者に対し、公正な利益の配分を求めることができる、という内容となっている。
「ネットの特別扱いはおかしい」と反論
これに対し今回の情報通信審議会の中間答申では、「こういった目論見では(デジタル・コンテンツの)流通が拡大しないことをこの審議会では確認している」と一刀両断。その上で、「ネット上に(デジタル・コンテンツが)流れないのは、通信事業者が自らリスクを負担しないからであり、権利処理が煩雑なわけではない。売り手と買い手の相場観が食い違っている」と反論している。
さらに、「インターネットの流通だけを特別扱いし、そのコンテンツの利用、配給に関して、番組製作者、権利者の発言権を封じるというようなことは、番組製作者、権利者の軽視であり、コンテンツ文化の軽視に根ざした発想なのではないか」とし、「コンテンツ製作者へのリスペクトが必要」という主張を行っている。
同答申では、これらの主張を繰り広げた上で、デジタル・コンテンツ流通の促進に関しては、「著作権の許諾権を制限するのではなく、取引情報のデータベース構築や放送番組見本市の開催など、民間主導によるさまざまな試行錯誤と創意工夫を基本的姿勢としてはどうか」と提言している。
だが、「ネット法」の発想が、民間を中心に少しずつ広がってきているのは確か。米国などですでに活発になっている放送番組などのネット配信が、日本に普及するためにはどうすればいいか、今回の意見募集の結果が注目される。意見募集の期限は、8月12日(火)午後5時(必着)となっている。