2008年6月18日にドレスデンで開催されたISC(International Supercomputing Conference)において第31回のTop500スパコンランキングが発表された。第一位は、IBMがロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratories:LANL)に納入する6480個のデュアルコアOpteronと12960個のCELLを使うRoadrunnerシステムで、1.026PFlopsと世界で初めて1PFlopsを超えた。これは今回第二位で、前回までトップであったローレンスリバモア国立研究所のBlue Gene/Lの478.2TFlopsの2倍以上というダントツのトップである。

そして、第三位はアルゴンヌ国立研究所のBlue Gene/Pの450.3TFlops、第四位はテキサス大のスパコンセンターにSunが納入したRangerシステムの326TFlopsである。ヨーロッパ勢は、第6位のドイツのFZJのBlue Gene/Pが132.2TFlops、8位にインドのTataグループCRL社のEkaシステムの132.8TFlops、9位、10位、14位にフランスのシステム、11位はスウェーデンのシステムが並ぶ。

これに対して、日本のトップである東大のT2Kシステムは82.98TFlopsで16位、筑波大のT2Kは76.46TFlopsで20位、そして、東工大のTSUBAMEは67.7TFlopsで24位、京大のT2Kが50.51TFlopsで34位とヨーロッパ勢に対しても見劣りがする。かつての栄光の地球シミュレータは35.86TFlopsで49位となっているが、前後に並ぶシステムは2006~2008年の登録であるのに対して、2002年の登録というところが貫禄を示している。

次の表に、1位から25位のシステムを示す。Siteは設置機関、Processorsはコア数、RMaxがLINPACKの実効性能、Rpeakは理論ピーク性能で、単位はGFlopsである。NmaxはLINPACK性能の計測を行った連立一次方程式の次数、Powerはシステムの消費電力で、単位はKWである。なお、Top500の表では、RoadrunnerのPowerは2345.4KWとなっているが、LANLのWebにある資料では3.9MWとなっている。Top500には、"Power data in KW for entire system"と書かれているが、空調は含んでいないと思われる。また、LINPACKの実行には直接必要ないファイルシステムの消費電力も含まれていない可能がある。これに対して、3.9MWは全てを含んだセンター全体の電力と思われる。

また、消費電力あたりのLINPACK性能でランキングするGreen500は、6月末発表予定であるが、 Roadrunnerは前回トップのBlue Gene/Pに較べて約20%改善しており、Green500でもトップになると予想される。

TOP500ランキング(1位~25位)(出典:第31回TOP500リスト)

さて、今回、栄光のトップとなったRoadrunnerシステムを詳しく見て行こう。このスパコンシステムは、全体のロッカーの本数は296本、設置面積は5500平方フィート(約550平方m)、消費電力は3.9MWと発表されている。

IBMの工場でテスト中のRoadrunnerシステム(出典:LANLのRoadrunnerホームページ)

米国では、原子力関係は平和利用も軍事利用もエネルギー省の管轄で、このスパコンシステムは、核兵器の性能と安全性を確保するために使用されると発表している。核軍縮条約で核兵器の修理や更新が禁止されており、米国の核弾頭は製造後30~40年経っているものが多い。古くなるとウランやプルトニウムは自然崩壊が進みヘリウムの泡ができてしまったり、起爆する火薬が劣化したりして、本当に役に立つのかどうかに不安がある。1992年までは、一部の核弾頭を使って地下核実験を行って本当に爆発することを確認してきたが、それ以降は地下核実験も禁止になり、実験での確認ができなくなってしまった。また、長い間、放射線に曝されている部品が劣化して破損したりして、放射能漏れなどが起こったりしたら大問題である。ということで、米国は、スパコンでの解析により、効力と安全性を検証するASCプロジェクト(旧ASCIプロジェクト)を推進してきた。しかし、高精度でこのようなシミュレーションを行うために必要な計算能力は膨大であり、ASCプロジェクトは世界をリードする最高性能のマシンを開発し続けている。前回までのトップであったローレンスリバモア国立研究所(LLNL)のBlue Gene/LもASCスパコンであり、そして、このRoadrunnerは、ASCプロジェクトで開発された最新、最強のスパコンである。

Roadrunnerシステムは、デュアルコアOpteronを2個搭載するIBMのLS21ブレードとCELLプロセサを2個搭載するQS22ブレード2枚を一組とし、両者をExpansionブレードで接続するTriBladeを計算ノードとしている。Expansion BladeはOpteronとCELLを結びつけ、かつ、他の計算ノードとの接続を行うという重要な役目のブレードであるが、TriBladeにカウントして貰えないという気の毒な立場で、Triと言いながら、計算ノードは4枚のブレードから構成されている。

TriBladeの構成(出典:LANLのRoadrunnerのホームページ)

この図に見られるように、LS21の2つのOpteronをHyperTransport(以後、HTと略す)で直結し、もう一つのHTでExpansion Bladeに接続している。Expansion Bladeは、HT2100でHTをPCI-Expressに変換し、QS22 Bladeとノード間接続のInfiniBandのネットワークアダプタを接続している。

TriBladeの外観(出典:LANLのRoadrunnerのホームページ)