プレス向けに都内ホテルで開催された、マイクロソフトの新年度経営方針記者会見

マイクロソフトは、2011年度(2011年6月末)を最終年度とする中期経営計画を発表した。樋口泰行社長は、「『地に足のついた』革新による確実な成長軌道の実現」をスローガンに掲げ、「企業IT市場におけるソリューションビジネスの拡大」「コンシューマーおよびオンライン市場における基盤確立」「お客様およびパートナー様満足をトコトン追及」「日本品質の追求と提供」「社員の能力を最大限発揮できる職場環境の提供」「環境に配慮した企業活動の推進」のそれぞれを計画の骨子とした。だが、「対外的には数字目標を発表しないことから、内容は定性的なものになる」(樋口社長)として、具体的な数値目標は公表しなかった。

中期計画のスローガンとして「『地に足のついた』革新による確実な成長軌道の実現」を掲げた

代表執行役社長 兼 マイクロソフト コーポレーションコーポレートバイスプレジデント 樋口泰行氏

樋口社長は、「本当にお客様に受け入れられる価値はなにか、根本的にやるべきことはなにか、といったことを社内で議論し、単に製品を出すだけではなく、価値の提供に力を注ぐことが『地に足の着いた』という意味につながる」と語った。

前任のダレン・ヒューストン前社長は、PLAN-Jという名称で、日本への投資を加速することを中期経営計画の柱としたが、「PLAN-Jは外国人の社長が日本に向けて投資をするという点からも、それを明確にする上で意味があった。日本人がトップとなったことで、ことさら言わなくても日本に投資していくのは当たり前。あえて名前をつけてはいないが、共同研究、ベンチャー支援、社会貢献といったPLAN-Jの取り組みは継続的に行っていく」とした。

また、「今回の中期経営計画は、PLAN-Jで築き上げたものの上で、現場でどうドライブするか、どう落としこむか、どう強くできるかといったように、アクション指向の強いものになる」と位置づけた。   また、7月1日から開始する同社新年度(2009年度)の計画としては、「最高のイノベーションを市場に届けるソリューションセリング体制」「コンシューマー統合戦略の推進」「売上成長エンジンの徹底強化」「基幹事業の強化」「お客様の不満をバネにした施策」「優秀なリーダー人材の育成」の6点をあげた。

新年度の注力分野

エンタープライズ領域に関しては、「マイクロソフトはパートナービジネスが基本であり、ビジネスを拡大するためには、パートナーとのエンゲージメント強化が必要。長期間に渡るパートナー戦略を鍵として、ソリューションビジネスを強力に推進する。また、ローカルで利用するソフトと、SaaSに代表されるネットワークによるアプリケーション利用がシームレスに行え、どっちを利用しているのかわからないという時代がやってくる。マイクロソフトは、どちらを提供するというのではなく、臨機応変に、ニーズによって提供できる体制を整える」と述べた。

加えて、Hyper-V、SQL Server 2008、Silverlight2、Internet Explorer8の提供と確実な導入支援を図るとした。 「日本は、世界で最もUNIXサーバの導入が多い国。スクラッチで一から組み上げる文化もある。パートナーにWindowsの技術を担いでもらうため、信頼性の高い製品、技術情報の提供、営業支援といったひとつひとつを着実に積み上げていく」とした。

一方、コンシューマ分野に向けては、「マルチパーパスだったPCによるPCセントリックの世界から、携帯電話やテレビなどの様々なデバイスにも、PCのような機能が広がりを見せ、オンラインとの連携が生み出す新たなバリューの提供が必要になってきた」と前置きし、「PC、モバイル、オンラインを結びつけ、ここにコンシューマフレーバーを入れた展開が必要になる。コンシューマとオンライン事業を組織的に統合したことで、統合戦略を推進できる基盤を作った」とした。

元EMI ミュージック・ジャパン代表取締役社長兼 CEOで7月1日に代表執行役 副社長に就任した堂山昌司氏

新たに設置したコンシューマー&オンライン事業部担当には、今日付けでEMIミュージックの社長から移籍した堂山昌司代表執行役副社長が就任。堂山副社長は、「まず半年間は、チームをひとつにすることに力を注ぎ、どんな新たなビジネスの可能性があるのか、どんなことがユーザーから求められているのか、マイクソロフトは何を提供できるのか、といったことを探っていくことになる。その後の半年は、様々な楽しみ方をユーザーに提案できるとともに、今後3年間に向けた方向性などが明確になるだろう。日本おいて、マイクロソフトがコンシューマおよびオンライン事業を拡大するために必要であると思う技術、補完する必要がある技術などについては、提携や買収ということも視野に入れていきたい」と語った。

同時に、コンシューマ分野においては、Xbox360によるゲーム事業の強化も打ち出し、「より多くのゲームをゲームソフトメーカーに開発してもらうこと、オンラインサービスにより価値を多様化し、進化させていくこと、日本のゲームメーカーのゲームを世界に紹介していくという、これまでの方向性は変わらず、その延長線上で強化していく」(ホーム&エンターテイメント事業本部長・泉水敬執行役)とした。

また、営業体制の抜本的改革と営業生産性の向上を掲げ、「これまでは営業努力をしなくても、売れていた時代を経験してきた。他社の製品が導入されている分野に対して、打っていくことができる営業の底力をつける必要がある。さらに、自己満足のマーケティングではなく、必ず営業に直結するマーケティングの取り組みが必要。先日、私の社長就任パーティーを行ったが、これも営業に直結するのであればやる、ということを前提に開催した」などとした。

基幹事業の強化としては、Windows Vista、Office 2007の導入展開によるインフラの最適化と生産性向上支援、プレインストール製品およひ技術の多様化への取り組み、PCの販売促進のためのOEM、リテールパートナーとの共同マーケティングへ取り組んでいく姿勢を見せたほか、お客様の不満をバネにした施策として、日本品質への確立に言及。「世界でもっと厳しい日本での品質評価基準を製品、サービスに盛り込む。日本では、チーフ・クオリティ・オフィサーを据えて、品質問題の改善に取り組んできた。この取り組みは、米国本社の開発にも影響しており、日本が示したバグのリストを別に用意して、品質改善に取り組んでいる。本社の評価が甘いと思った部分は、日本にテスターを置いて、独自に評価するといったことも行っている」と語った。

さらに、パートナー、IT技術者、開発者に提供する日本語の技術情報が少ないとの要望に対応して、「この上期だけで、1万ページにのぼるドキュメントを日本語化することを決定した。この不満を一気に解決できる」などとした。

加えて、明日予定されている社員総会で発言する予定の内容として、「マイクロソフト社員の行動規範」、「マイクロソフトが目指すべき企業像」についても紹介した。

マイクロソフトの目指すべき企業像

マイクロソフト社員のビジネス行動規範

なお、昨日付けで、米本社のビル・ゲイツ会長が、経営の一線を退いたことに関しては、「十分な期間をかけて移行を図っており、大きな混乱もなく、ビジネスへの影響もない。日々の活動はスティーブ・バルマーというすばらしい経営者に移管されている。ソフトウェアの方向性やアーキテクチャを間違うと大変なことになるが、ゲイツは、週5日のうち1日は、マイクロソフトに対して、高い視点、広い視野から、ソフトの方向性を導くことになる。そのため、この点に関しても、大きなインパクトはない。ゲイツの活動の重心は社会貢献ということになるが、先日、ゲイツと会った社員に聞くと、パッションを持って、マイクロソフトの仕事にも取り組んでいるという。トップが分単位で働くという姿勢を自ら見せており、社員も自ずと働く姿勢ができあがっている」などと語った。

5月に来日したときのゲイツ氏(左)と樋口氏