ミラクル・リナックスは7月1日、社長交代を含む新経営体制を発表するとともに、通信・携帯などのアプライアンス製品や組み込み機器向け製品を拡充することを発表した。代表取締役社長には、社内昇格した児玉崇氏が同日より就任し、前社長の佐藤武氏は、業務執行権を持たない取締役会長に退いた。また、取締役としては、伊東達雄氏が新任。あわせて導入された執行役員制では、最高経営責任者には児玉氏が、執行役員 技術統括責任者 技術本部長には伊東氏がそれぞれ就任した。
児玉氏は、日本オラクルと米オラクルでエンジニアとして活動したのち、2003年6月よりミラクル・リナックスの戦略事業推進室長を兼務。翌年6月に同社に転籍後は、営業および戦略推進の責任者を歴任し、2007年12月に同社が参加した日中韓の合弁会社アジアナックス・コーポレーションの創立にも貢献した。現在もアジアナックスの取締役副社長を務める。
また、執行役員 営業統括責任者 カスタマーサービス本部長には原克己氏が、執行役員 人事・財務・総務統括責任者 管理本部長には渋谷峰弘氏がそれぞれ就任。前取締役CTOの吉岡弘隆氏は、取締役を退任し、シニア・エキスパートとして、エバンジェリスト活動とともに、モバイル・インターネット・デバイス関連の開発を担当するという。
発表に際し、取締役会長の佐藤氏は、新経営体制への移行の背景には、同社を取り巻く市場環境の変化があったことを指摘し、「業務サーバLinux市場の成長が鈍化する一方で、アプライアンス系、組み込み系が大きく伸びていることから、"第2の創業"の必要性があった。若い経営陣により社内を活性化し、新しい分野にチャレンジしていく」と語った。
一方、児玉氏は、新体制の発表に合わせて、新ビジョンとみずからのミッションを表明。「OSSの発展に寄与する企業になり、エンジニアが活躍できる楽園を創る」とのビジョンを語るとともに、ミッションとして、国産OSベンダーとしてOSSコミュティとビジネスの世界をつなげることや、日本から世界に挑戦するエンジニアを育成すること、アジアを中心とした発展途上国のIT産業の振興に寄与することを掲げた。
そのうえで、児玉氏は、同社のビジネスの現状・特徴と今後の事業計画を紹介。まず、現状としては、Oracleデータベースとの親和性やハイアベーラビリティといった特徴、日本に常駐するエンジニア集団といった資産を生かしながら、「Asianux Server 3」を中心としたビジネスを継続していくことを強調。また新たに、オープンソースの統合監視ツール「ZABBIX」やIPv6への対応などに取り組んでいくことを明かした。
今後の事業計画については、NGNやモバイル・インターネット・デバイス関連のビジネスを成長させることで、3年間で90%の売り上げ増を目指すという。具体的には、モバイル分野における米インテルとの協業により、新CPU「Centrino Atom」に初めて対応したディストリビューション「Asianux Mobile Midinux Edition」を展開していくことや、2009年2月から首都圏で試験サービスが開始されるモバイルWiMaxへの対応などを挙げた。
発表では、実際にAsianux Mobile Midiux Editionを搭載したレノボ製デバイスの実機によるデモも行われた。この新端末は、今夏に中国で発売される予定となっており、価格としては今のところ6000人民元(約9万円)程度が想定されているものという。デモでは、Windows Mobile端末などではCPU性能の問題などでコマ数が正常に描画できないような動画でも、PCと同等の性能を備える同端末ならスムーズに描画できることや、タッチ・パネルを指で触れることによって、フロントのページを切り替えたり、アプリケーションを起動できたりすることが示された。
この新端末の開発を主に担当しているのは、アジアナックス・コーポレーションという。同社は現在、北京と無錫にオフィスを持ち、開発人員としては50名程度が在籍する。デモに使用した実機では、中国語と英語のみの表示だったが、「日本語ローカライズも進めており、日本語による表示も可能」(児玉氏)だが、国内の発売は今のところ未定となっている。
児玉氏は、そのうえで、「こうしたコンシューマー向けのモバイル製品への拡大を見れば、ミラクル・リナックスに対するこれまでの地味なイメージも変わるはず」と、"第2の創業"による同社の変化をアピール。さらに、コンシューマー向けモバイル製品から、NGN対応Linux、Oracle Databaseによるディザスタリカバリ製品、トータルHAソリューションといったエンタープライズ向け製品にいたるまでをカバーできることが同社の強みであることを強調した。
なお、Asianux Mobile Midiux Editionの国内展開については、コンシューマー向けではなく、POS端末や業務用PDAなどの代替として普及を図っていきたいとしている。