米Red Hatのプライベート・イベント、「RED HAT SUMMIT BOSTON 2008」が18~20日の3日間、BostonのHynes Convention Centerで開催されている。同社はこのイベントを"Open Source Technology Conference"と位置づけており、イノベーターとオープンソース技術の最新トレンドが集まる場としている。
初日である18日の午前中には、3本の基調講演が行なわれた。まず提示されたメッセージは、「あなた方は単なるユーザーではない。単なる開発者、単なるパートナーではない。我々はみんなで1つのコミュニティを作り上げているのだ」というもの。このテーマは、同社のCEO、Jim Whitehurst氏の基調講演でも繰り返し強調された。
司会役としてまず登壇した同社のEVP&President, Products & TechnologiesのPaul Cormier氏は、Bostonでのイベント開催ということに関連し、同社の初期の開発拠点(R&D Headquarters)が市街から20マイル程離れたBoston近郊にあったことを紹介した。紹介された写真には、CTOが自らトイレ掃除を行なっている様子などもあり、初期の頃の雰囲気を伝えていた。
最初の基調講演として登壇した同社のCEO、Jim Whitehurst氏は、「オープンソースのリーダーとして同社が今後どのようにオープンソースのビジネスに取り組むか」、という、ある意味ではごく基本的な話を改めて整理して見せた。同社はオープンソース・ソフトウェアを中核に据え、ライセンス体系やサポートといった要素をその周囲に配して「ユーザー企業にとってよりよい環境を作り出す」ことで、今後も「100% Open Source Company」であり続けるという。
同氏は先週米国で発表された特許訴訟の和解のニュースについても簡単に紹介した。Firestar SoftwareとDataTernとの間で争われた特許訴訟だが、Red Hatはこの訴訟に関して自社に関わる部分に限定せず、広くエンドユーザーやコミュニティ全体を保護することを実現したという。そこには当然Red Hatから見た競合他社も含まれるが、同氏は「これこそが"オープンソース・スタイル"の解決策だ」という。
また同氏は、オープンソースへの取り組みの進化についても語った。同社の活動について同氏は「Red Hatはユーザー企業にとっての"オープンソース・アドバイザー"だ。ユーザー企業にオープンソース・ソフトウェア製品を提供するだけではなく、オープンソース・モデルの利点やアドバンテージをユーザー企業が活用できるように協力していく」という。その一例として紹介されたのが、同社が提供する「Enterprise MRG」(MRG: Messaging、Realtime、Grid)の開発経緯に関するエピソードだ。MRGは、エンタープライズ環境でのメッセージングのための、リアルタイム機能に対応した高信頼/高性能のプラットフォームだが、もともとは米国の金融機関であるJPモルガンが自社内で利用するために開発したソフトウェアをオープンソース化したものだという。自社開発のソフトウェアを自社内だけで使うのではなく、オープンソースとして公開すればユーザーも増え、ユーザーからのフィードバックによってさらに進歩していくことが期待できる。また、コミュニティによる開発に委ねることで、開発やメンテナンスに関するコスト負担から解放されることにもなり、低コストでよりよいソフトウェアが利用できる可能性が開ける。このことにJPモルガンのCIOが気づいたのがきっかけだという。
JPモルガンはこのソフトウェアをオープンソースとしてコミュニティに提供することとし、Red Hatのコミュニティに委ねた。これを受けてRed Hatは開発を継続し、さらにコードのメンテナンスを行なっているというわけだ。こうした活動も、"オープンソースのパワーを世の中に広く知らせる"という意味で「ユーザー企業のオープンソース・アドバイザー」としての重要な取り組みだといえるだろう。オープンソース・ソフトウェア開発は、まずは個人開発者による趣味的活動から始まり、現在ではさまざまなIT企業が取り組むようになっている。JPモルガンの事例は、ユーザー企業がインハウスで開発したソフトウェアまでがオープンソース化される動きが始まっていることを示すものだ。企業でのオープンソースの認識が、「無償で利用できるソフトウェア」というレベルに留まらず、「開発成果を公開することで、標準化された優れたソフトウェアを広く利用する道が開ける」という、より成熟した段階に達していることを示す例だとも言えるだろう。