和歌山県と大阪府はこのほど、マイクロソフトとICT教育推進プログラム協議会が連携して提供する教員のICTスキル向上支援プログラム「ICTスキルアップオンライン」を導入すると発表した。現在の教育分野では子どもに対するICT教育の重要性が高まる一方、教える側のICTスキル不足が課題となっている。同プログラムは、教員のICTスキル向上を目的とした「ICTスキルアッププログラム」をeラーニング化したもの。校務で多忙な日々を送る教員でも、時間や場所を問わず、マイペースでインターネット経由でトレーニングを受けられる。両自治体は同プログラムを通じて、ICT活用に習熟した人材の育成を目指す。

和歌山県が教員・中小企業サポートでMSと協働

和歌山県とマイクロソフトは先月29日、教員のICTスキル向上に関する覚書を交わした。県内の小中高学校ほか特別支援学校の教員を対象に、1年間でのべ500人のeラーニングを実施する。また、試験運用として「答えてねっと ガジェット for Teachers」も提供。同社が運営するQ&Aサイト「答えてねっと」から教員向けの情報をピックアップし、デスクトップ上のガジェットに表示するというもの。和歌山県でのフィードバックを得た後、全国の教員向けに提供していく予定という。

ICTスキルアップオンラインのサイト

「答えてねっと ガジェット for Teachers」

同日の会見に出席した仁坂吉伸和歌山県知事は、「子どもたち自身が将来どこで何をしても立派にやっていけるようなスキルを身に付けてもらうために、まずはその指導者である教員のスキルアップを図る」ことが目的と述べ、マイクロソフトの研修プログラムに期待を寄せた。

今回は教育面だけでなく、和歌山県内の中小企業におけるICT活用を推進する取り組みについても、マイクロソフトと協働していくことが発表された。「中小企業の経営力強化、経営革新を目的」(仁坂知事)に、中小企業経営のIT化について学べる「IT実践塾」の無料セミナーを実施していく。IT実践塾は2001年にスタートし、現在までに開催回数は約950回、42,000人以上が受講している。同社代表執行役社長 樋口泰行氏も、IT実践塾の利用を推奨。「IT実践塾の参加を通じてICTの利活用の有効性を認識していただき、県内の中小企業の活性化に寄与できればと考えている」。

5月29日、和歌山県とマイクロソフトが教員のICTスキル向上と中小企業のIT化推進で覚書を締結。写真左から、和歌山県教育長 山口裕市氏、和歌山県知事 仁坂吉伸氏、マイクロソフト代表執行役社長 樋口泰行氏、同社執行役常務 大井川和彦氏

なお、同県では和歌山市が昨年10月にマイクロソフトと提携を発表している。学校の情報化を目的に、市内の小学校に配備した1,300台のタブレットPCを使った授業の実践や教員のICTスキル向上に取り組んできた。同市の取り組みは、4月にベトナムで開催された「Regional Innovative Teachers' Conference 2008」において、「tabletPCとOneNoteの活用」というテーマで和歌山市立有功東小学校の本岡朋教諭から発表されている。

大阪府は独自の形で「ICTスキルアップオンライン」を導入

大阪府でも12日、「ICTスキルアップオンライン」の導入に関して発表が行なわれた。

大阪府の導入例は他の自治体と異なり、夏休みと冬休みの2回、各回75名の教員を対象に同プログラムを実施する。来年1月までの受講者数を計150名に絞り込み、独自のレポート提出を課すほか、追加研修を行なうなど、より充実したトレーニングの提供を予定。受講者の選別方法は登録者の反応を見て決めていく。来年以降は受講者数の拡大も検討しているという。

綛山(かせやま)哲男教育長は、「子どもたちの『生きる力』の重要な要素として、情報モラルにも対応しつつ、情報を的確に取り扱うことのできる『情報活用能力』を育成」することが欠かせないと説明。そのために教員のICT指導力の向上を図ってきたが、「なかなか進んでいない現状」(同氏)という。今後は、ICTスキルアップオンラインを軸に教員のICTスキルを育成、「子どもたちの学習に対する意欲や興味・関心を高め、『わかる授業』を実現」することを目指す。

大阪府ではマイクロソフト執行役常務 大井川和彦氏が会見に出席し、ICTスキルアップオンラインの効果を説明した。「このプログラムを導入した自治体(茨城県)では、文科省の教員のICTスキル調査の5項目すべてで1位を獲得するなど実績あるもの。大阪府においても良い結果につなげていきたい」。

ICTスキルアップオンラインでは、テキストをダウンロードしていつでも内容を確認できる機能や動画を使ったわかりやすい学習コンテンツを用意しているほか、進捗状況を管理して計画的にトレーニングを進めたり、テストによって理解度をチェックしたりすることもできるようになっている。