3次元CADを中心としたPLM(Product Lifecycle Management)ソリューションを展開するダッソー・システムズは9日、戦略パートナーであるIBMとともに年次イベント「2008 JCF」を開催。同社で社長兼最高経営責任者を務めるベルナール・シャーレス氏が6月から提供を開始したPLM製品の新バージョン「V6」のコンセプトや機能強化点、今後の事業戦略などを説明した。
V6の大きな特徴は、3次元CADソフト「CATIA」、解析ソフト「SIMULIA」、デジタル製造・生産ソフト「DELMIA」、コラボレーション・ソフト「ENOVIA」、3Dデータの共有サイト「3DVIA.com」といった同社の主要製品/サービス間の連携性を高め、オンラインによるコラボレーションを容易にしたこと。同社では、「PLM 2.0」というコンセプトを掲げ、製造・設計の現場がグローバル化し、品質やデリバリーに対するユーザーの要求が高まるなか、「3Dによるリアルな体験を通じて、誰もが製品を創造、共有、体験することを可能にする統合オンライン環境を提供する」としている。
その具体例として、ユーザー企業向けの講演では、V6プラットフォームを使ったオンライン・コラボレーションのデモが行われた。デモでは、「ラジコン・カーの燃料の量を増やしてほしい」という消費者からの要望を受け、2人のエンジニアが新しい燃料タンクを共同で設計、その後、消費者からフィードバックを得るためにバーチャルな完成品をWeb上で公開するまでの様子が示された。
まず、1人のエンジニアがフランスの本社の一元的なデータベースにインターネット経由でアクセス。ENOVIA V6の「3D Live」ツールを使って、部品データベースから必要な部品を視覚的に検索するとともに、その部品データをそのままCATIA V6上に移行させ、V6の新機能である「CATIA Live Shape」ツールを使って、形状のコピーや延長、フィレット加工、穴あけなどが簡単にできることを示した。
次いで、このようにして作成した構造設計のセッション情報(リンク)を、遠隔地にいるもう1人のエンジニアにチャットで通達。セッション情報を受け取ったこのエンジニアが、本社のデータベースにアクセスし、実データをロードしたしたうえで、詳細な設計に移ることができることを示した。また、解析についても、同一の設計データをそのまま「SIMULIA V6」に移行できるほか、生産現場における組み立てについても3Dデータを利用した分かりやすい指示ができると説明。こうした単一プラットフォームによるコラボレーションによって、TCO(Total Cost of Ownership)の削減とユーザーの生産性向上が望めることが強調された。
さらに、デモでは、完成したデータを消費者と共有する方法として、SNS(Social Networking Service)「Facebook」に公開する例も紹介。公開にあたっては、完成したラジコン・カーのデータを3D XMLに変換し、背景画となる2次元の写真データと合成。消費者は、合成されたバーチャルな3D空間のなかで、実際にラジコン・カーを操作することもできるようになるとし、新しいユーザー体験の提供とそのフィードバックを新製品開発に生かすアプローチの方法が示された。
これらを踏まえたうえで、シャーレス氏は、「単一プラットフォームと集中データベースを使って、オンラインによる3Dコラボレーションを推進することは、製品の開発・設計・販売のあり方を大きく変えるものだ。今後は、製品が消費者の間でどのように使われるか、環境にどういった影響を与えるか、廃棄物をどう削減できるかといったことまで、バーチャルな空間でシミュレーションすることが可能になるだろう。V6プラットフォームは、その変革を促すためのエンジンでもある」と、新バージョンとPLM 2.0事業の展望について意気込みを語った。
一方、ダッソー・システムズと戦略的パートナー関係にあるIBMで、PLMソリューションズ バイスプレジデントを務めるアル・バンシャフト氏は、同社のPLM事業の概要や戦略について説明。「WebSphere」、「Rational」、「Lotus」 、「Tivoli」 といった製品群によってPLMソリューションの基盤を提供するとともに、大和研究所など世界9カ所に設立されたCoE(Center of Excellence)において、PLMにかかわる人・情報・プロセスの統合などの研究開発に取り組んでいることを強調した。
また、同氏は、そうしたソリューションの例として、Lotus DominoとEnovia LCAの連携を挙げた。ここでは、Lotus Dominoに蓄積している設計関連情報とEnovia LCAの設計データをESB(Enterprise Service Bus)によってつなぐことで、ビジネス・プロセス・エンジンを統合するととともに、CATIA/LCAを利用する設計者、Notes/Dominoを利用する解析者、Webサイト上での承認者をそれぞれ連携させることができるという。その際には、BPEL(Business Process Execution Language)に準拠したビジネス・プロセスの開発や、SOA(Service Oriented Architecture)に基づいたサービス開発、ビジネス・プロセス変更にも対応する。また、オンライン会議/チャットなどについても、Lotus Sametimeなどのコラボレーション・ツールによって、V6製品群と密接に連携することが可能になっているという。
なお、シャーレス氏は、同日開催されたプレス向けコンファレスで、同社のソリューションをSaaS形式で提供する予定があることや、3DVIA.comを拡充させて消費者を含めた幅広いユーザーに3Dツールを提供していく方針を明かした。SaaSについては、すでに海外の一部ユーザーに対して提供を開始しており、2009年をめどに正式サービスを公表する予定という。