マイクロソフト 代表取締役社長 樋口泰行氏

Great Place to Work Institute Japanによる「働きがいのある会社」の第1位にマイクロソフトが選ばれた。同調査の結果が発表されたことにあわせ、「働きがいのある会社~ベストカンパニー」をテーマに、6月4日に開催された「Great Place to Work Institute Japan Forum 2008」では、マイクロソフトの樋口泰行社長が、「働きがいの源泉とは」をテーマに講演を行った。

Great Place to Work Institute Japanでは、「働きがいのある会社」を広く産業界に普及し、その実現のため、リスティング、教育/研修、コンサルティングなどの支援活動を行っている。

樋口社長は、「良い会社の定義」に触れ、「楽な会社が良い会社と言われるが、本当は、楽な会社は良い会社ではない。厳しいことも楽しいこともあり、苦楽があって成長しているというのが良い会社。人生のなかで、起きている時間の多くを会社で過ごしていることを考えると、働きがいのない会社にいては、無味乾燥な人生になってしまう。逆の見方をすれば、社員が働きがいを持って働いていることは、会社の競争力を生み出す源泉になるともいえる」とした。

また、「自分がイメージする経営力の要素」として、「社員力 + 健全なる企業文化 + 戦略 = 経営力」という方程式を持ち出し、「まず大切なのが、社員個人のスキル、能力、経験による社員力。これは現場力ともいえるものだ。そして、社員が能力を存分に発揮できる企業文化が次に必要となる。ここに、社員は働きがいを感じることになる。だが、社員がいくらがんばっても、会社の方向性が間違っていたら、会社は成長しない。この3つが一緒になって、会社の経営力が推し量れる」などとした。

今回の働きがいのある会社の第1位の受賞については、「誇り、公正、信用、尊敬という領域において、ベスト5に入り、バランスよく高い評価を得ている。とくにうれしかったのが"誇り"。会社に行く人が、仕事に行くことを楽しみにしているという評価を得ており、実際に社員からは、『会社が近づくと自然と早足になる』『会社に行きたくて早起きしてしまった』という声もある。自分も早くそうなりたい」などと語った。

だが一方で、連帯感の項目でベスト5に入っていなかったことをあげ、「これは反省材料にあげられる。私自身も個人主義が強いと感じており、face-to-faceの場面を増やし、チーム主義を醸成していく必要がある」としたほか、「部署によっては部下を私物化していたり、閉塞感があるということも見受けられる。企業文化が腐ると、いい人材が腐り、悪い人材ばかりが残る。ここを改善していく」とした。

マイクロソフトが掲げる"経営力の要素"

誇り、公正、信用、尊敬、連帯感…企業力にはバランスが重要

一方、マイクロソフトが2006年から「myMicrosoft」として、5つの観点から人材育成に取り組んでいることも披露した。myMicrosoftでは

  • パフォーマンスマネジメント
  • 報酬と表彰
  • キャリア開発
  • マネジメントエクセレンス
  • 職場の環境向上

の5つの観点から取り組んでおり、そのベースとして、6つの「マイクロソフトバリュー(価値観)」があることを示した。

6つの価値観としては

  • 誠実で正直である
  • オープンで相手に敬意を払う
  • チャレンジ精神
  • 情熱
  • アカウンタビリティを発揮する(自らの責任を実行する)
  • 自らの向上に務める

という点をあげ、その上で、コミュニケーション、ダイバーシティおよびインクルージョン、ワークライフバランスに取り組むという。

ワークライフバランスでは、在宅勤務制度やフレックスタイム制度、社員とその家族が無料で専門家に悩みなどについてカウンセリングを受けられる社員援助制度、クラブ活動支援のほか、月1回40分間、社内で無料マッサージを受けられる健康のケアなどの取り組みをあげ、「なかでも有給での看護休暇では、社員の家族の看護、介護のために5日間の有給休暇を取得できる。家族でなくても、婚約者などの重要なパートナーへの看護もこの対象になる」ことを紹介した。

マイクロソフトの人材育成の視点「myMicrosoft」

マイクロソフトの6つの価値観

経営層と社員間のコミュニケーション

ダイバーシティとワークライフバランスはマイクロソフトが力を入れている分野

さらに、キャリア開発としては「70:20:10ラーニングモデル」を示し、オン・ザ・ジョブトレーニングが7割、メンタリングによるラーニングが2割、オフ・ザ・ジョブにおけるトレーニングセミナーが1割という構成のなかで、人材教育を進めていることを示した。このなかで実施されている「次世代リーダーのための1年間のキャリアメンタリングプログラム」では、樋口社長自身も3人のメンタリングを担当しているという。

またマイクロソフトでは、「MS Poll」と呼ばれる社員意識調査を、1994年から年1回のペースで実施しており、ここでは、社員が上司を評価するといった仕組みを導入していることも特徴といえる。

70:20:10ラーニングモデル

MS Pollの構成要素

樋口社長は「健全なる企業文化を醸成するには、愛情がベースにある。社員に対して、成長してもらいたいという愛情を持って接すれば、必ず響く。社員は、この人のために働こうという気持ちにもなってくれる。尊敬される人材がいることが、会社を成功に導くことになる」とした。

なお、Great Place to Work Institute Japanでは、マイクロソフトが1位に選ばれた要因を次のようにしている。

「『世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を、最大限に引き出すための支援をする』という企業ミッションのもと、コンピュータ・ソフトウェアおよび関連製品の営業・マーケティングを行う。「働きがい」に影響を与える多様なプログラムを活用し、ITを活用しているだけでなく、その源流に人間性を感じる企業経営を行う。世界で最も素晴らしい職場になることをめざして、2006年から「myMicrosoft」という活動を展開している。パフォーマンス評価、報酬体系、キャリア開発、リーダー養成、職場環境の向上の5分野で変革を推進している。『社員力を経営力へ』というスローガンを持つ同社だが、単なるスローガンで終わっているのではなく、源流に人間性を感じることができ、従業員の「働きがい」に影響を与えるまで浸透している」