日本ユニシスは6月4日、報道関係者向けの説明会を開催し、同グループが新たに構築する次世代IDC(Internet Data Center)基盤上に、さまざまなSaaS(Software as a Service)サービスやインフラリソースを統合し、ワンストップで顧客企業に提供するSaaS事業を開始すると発表した。

日本ユニシス 常務執行役員 ICTサービス本部長 角泰志氏

同SaaS事業の大きな特徴は、日本ユニシスグループの製品/ソリューションにとどまらず、パートナー企業が展開する既存のSaaSサービスを統合し、移行から開発・運用、サポートまでを一括して提供する点。顧客企業は、同社を通じて、メールやCRM、ERPといった複数のアプリケーションを複数のサービス・プロバイダーから選択的に導入できるようになるとともに、顧客管理や商品管理、債権管理といった、従来システムインテグレーションが必要とされていた分野についても、共通のインフラ基盤上でサービスとして利用することが可能になるという。

次世代IDC基盤の構築にあたっては、日本ヒューレット・パッカード、シスコシステムズ、ネットアップと協業。最新のサーバ/ネットワーク/ストレージにおける仮想化技術や運用の自動化技術、省電力技術を取り入れたデータセンターを今年9月ごろに完成させる。また、バーチャルデータセンター環境として、米アマゾン・ドット・コムが提供する「Amazon Web Services」も併用し、同サービスのEC2/S3/SimpleDBといったオンラインのサーバ/ストレージ/データベース・リソースを、顧客のニーズに応じて即日で提供できるようなインフラ環境を整備する。

次世代IDC基盤で提供されるSaaS事業の概念図

この次世代IDC基盤上で展開され、同SaaS事業の中核とも言えるのが、SaaSサービスのプラットフォーム「PaaS(Platform as a Service)」と、顧客企業がSaaSサービスを利用する窓口となる「ビジネスパーク」。このうち、PaaSについては、SaaSプラットフォーム製品「kit Application Sevice Platform」を展開するきっとエイエスピーと協業し、パートナー企業が保有する既存アプリケーションの"SaaS化"や、その評価、運用体制の整備などを進める。その際、認証やアクセス制御、マルチテナントといったIT面の機能のほか、販促や契約、課金、決済といったビジネス面の機能もサービスとして利用できるようにする。

PaaSとビジネスパークによるSaaSサービスの利用イメージ

一方、ビジネスパークは、メールやCRM、ERP、物流、人事・教育などといったさまざまなSaaSサービスを集約する場として、2009年春に公開予定。ここでは、ISVや他のSaaSサービス・プロバイダーの参加も募る方針で、顧客企業は、ビジネスパークを通じて、他社のSaaSサービスも利用できるようになるという。現在は、ネットスイートのERPサービス、オラクルのCRMサービス、マイクロソフトのメールサービスの提供が予定されている。

発表に際し、日本ユニシスで常務執行役員 ICTサービス本部長を務める角泰志氏は、国内におけるSaaSサービスの普及率は低いものの今後の成長率は高まるとの市場調査を踏まえながら、「まずは国内市場の立ち上げが最優先であり、その中で我々ができるものを提供していく」と、パートナー企業との協業を中心としてSaaS事業に取り組む意図を説明。

角氏によると、ソフトウェアの提供形態が所有から利用へと大きく変化するSaaSに注力することは、システムインテグレーターの既存事業を破壊しかねないものでもあるという。そのうえで、同氏は、「SaaSの普及が見込まれるなか、ベンダー側としても、従来の労働集約型のシステムインテグレーションから、知財活用型のサービスインテグレーションへとビジネスをシフトしていく必要があると考える。今回、次世代IDC基盤でSaaS事業を展開することは、これまで当社として十分に対応できていなかった中堅中小企業の分野に大きくドライブをかけることでもある」と、今後の事業戦略の方向性も示した。

発表では、サービスインテグレーションやイメージとして、通信販売会社が、受注から決済までの業務プロセスをSaaSとして日本ユニシスにアウトソースする例が示された。アウトソースされた業務プロセスは、さらにインターネットを介して、配送管理についてはヤマトシステム開発のASPサービス「荷物追跡」と、商品画像については富士フイルムのASPサービス「KeitaiPicture」と、決済処理については決済サービス会社のASPサービスなどと、それぞれリアルタイムに連携するといった説明がなされた。

通信販売会社でのサービスインテグレーションのイメージ

日本ユニシスの「RENANDI」を中心としたサービス連携ソリューションの例

また、ビジネスパークを利用したサービス連携の例としては、情報・システム研究機構のCMS「NetCommons」で構築したコミュニティ・サイトとネットマークスの「OfficePlanet メール」を組み合わせながら、日本ユニシスの教育ソリューション「RENANDI」を顧客企業のシステムと連携させるかたちが示された。

なお、同社のSaaS事業は、今年4月に新設されたICTサービス本部を中心に既存インフラを利用した部分的な運用が開始されているという。次世代IDC基盤については、9月までにトライアルを重ね、10月をめどに、具体的な料金やサポート体制が公表される見込みとなっている。