インテルは5月30日、インテル プラットフォーム技術セミナー2008を開催した。基調講演に続いて行なわれた「コーポレート・テクノロジー・セッション」では、「メニーコアの効率的な利用によるテラ・スケール・プラットフォーム上でのコネクテッド・ビジュアル・コンピューティングの実現」というタイトルで、米Intelのコーポレート・テクノロジー統括本部 マイクロプロセッサー・テクノロジー・ラボ 技術プログラム・マネージャーのインガ・ワイロニス氏が講演を行なった。
同氏は「ムーアの法則はまだ生きている」としつつ、ムーアの法則に従って増加していくトランジスタ数を「どう使うのか」という部分は変化しており、今後はメニーコア化による"プロセッシング・エンジンの統合化/並列化"の方向に進むとした。
これを裏付けるデータとして同氏はIntelのプロセッサの出荷実績を示し、シングルコア・プロセッサの出荷数をマルチコア・プロセッサの出荷数が追い抜く"Cross Point"はすでに2006年に越えていることを紹介し、「非可逆的なトレンド」と評した。
また同氏は、Intelのマルチコア化の経緯を振り返り、「"More Clock"から"More Cores"への転換は、Intelの製品戦略にとっても大規模な方向転換だった」とした。
さらに、2年ほど前からIntelが発している「テラスケール・コンピューティング」とマルチコア化への転換を関連づける発言も行なった。同氏によると、テラバイト級のデータセット・サイズと毎秒テラ命令(TIPS)の演算性能からなる「テラスケール・コンピューティング」を想定し、このプラットフォームで実行されるアプリケーションとして、Recognition(認識)、Mining(マイニング)、Synthesis(合成)という、同社が"RMS"と呼ぶ用途を想定したのが出発点で、こうしたアプリケーションが必要とする演算性能を実現するアーキテクチャを現実化するためにマルチコア化に転換したのだという。
初期には、プロセス技術の微細化によって増大するトランジスタ数を効率よく性能向上に繋げる現実的な解としてマルチコア化が語られていたように記憶するが、公式なメッセージとして、マルチコア化は製造技術ではなく、あくまでもコンピューティング需要に対応するための最良のアーキテクチャとして採用されたというストーリーに落ち着いたようだ。
さらに同氏は、RMSをさらに詳細化した概念とも考えられる、"Connected Visual Computing(CVC)"についても紹介した。同氏が紹介したCVCの具体的な例としては、"MMOGs"(多数ユーザー参加型のオンラインゲーム)、"Metaverses"(Second Lifeのような3Dのビジュアルな仮想世界)、"Paraverses"(バーチャルとリアルのマッシュアップ)、"Virtual Films and TV"(仮想世界で再生される映画や映像など)で、いずれも何らかの形で高度な3Dグラフィックスが関連しているのが特徴といえるだろう。
同氏は、CVCの実現にはテラスケール・コンピューティング・プラットフォームが不可欠であり、さらにCVCではさまざまな要素が並列処理される必要があるため、現在研究中のテラスケールのメニーコア・プロセッサが必須となるとした。
実は基調講演の中でパット・ゲルシンガー氏も「ビジュアル・コンピューティング」という表現で同様のコンセプトに言及しており、現在のグラフィックス技術による「リアルな外観」のレベルから、「リアルな動作/リアルな感触」への進化を実現していくと語っている。
ワイロニス氏はこうした方向性を受けて、将来的には現在のGPUのようなグラフィックス専用プロセッサによる処理の比重は下がり、多くの部分をプロセッサ側で処理することになるだろうという展望も示した。
PC市場ではプロセッサの演算性能の向上が需要喚起手段として有効とは言えなくなってきている状況であり、にもかかわらずマルチコア化によってプロセッサの処理能力は全体としては向上する方向だ。
一方で、マルチコア化されたプロセッサの処理能力を効果的に使っていくためには並列プログラミングへの移行が不可欠であり、この方向に市場を引っ張っていくためには、並列処理に向いた用途/アプリケーションの普及拡大が不可欠となる。
現時点で想定される、並列化に向き、より強力な演算性能を必要とする用途としては、高精細な3Dグラフィックスくらいしかない、ということのようであり、Intelとしては今後数年はビジュアライゼーション関連の技術に注力していくことになると考えられる。