ASP・SaaSイノベーション・シンポジウム2008の初日の講演に登場したのが、セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長である。「SaaSの可能性: あらゆるビジネスニーズに合ったアプリケーションを」をテーマに、約50分に渡り、デモストレーションを交えて、同社の戦略などについて触れた。
宇陀社長は、日本において、SaaSに対する注目が高まっていることを指摘。「政府や企業からもSaaSに対する高い期待があり、社会を変える可能性があるものとしての期待も集まっている。日本は最先端のICT環境が整備されていながらも、利活用という点では世界11位となっている。SaaSが、ICTの利活用促進に貢献することになるだろう。そのためには、SaaSを安心して選択できる環境が必要であり、私からも政府に対して、そうした環境づくりをお願いした経緯がある」とした。
「製品やサービスが急速に立ち上がる時期には、適切ではない業者が入り、事故を起こすことがある。SaaSの場合でも同様のことが想定され、顧客から預かったデータを集めて転売してしまう、あるいは企業が倒産して、利用者に影響を及ぼすといったことが考えられる。こうしたことが起こると、ASPやSaaSのモデルそのものが否定されることにもつながりかねない。それを回避するために、信頼性基準のお墨付きができないだろうかというお話しをした。政府では、ASP・SaaS安全・信頼性認定制度を開始し、5月16日にはASP・SaaS安全・信頼性認定制度の第1号認定業者として当社が認定された」と、同社がSaaSの草分け的存在であり、日本においても信頼性のあるSaaS事業者に認定されたことを示した。
セールフォースドットコムは、米国で1999年に創業、2000年からサービスを開始して、SaaS型CRM市場では、49%のシェアを獲得し、世界ナンバーワンシェアを誇る企業。米経済誌フォーブスの調査では、米国のあらゆる業種を含めた企業のなかで、成長率が最も高い企業がグーグル、2番目に高い企業をセールスフォースドットコムとしている。
宇陀社長は、「セールスフォースドットコムは、ヤフーやグーグル、アマゾンといった企業と、同じような企業として捉えることができる。当初は、コンテンツマネジメントの領域からスタートして、CRMへと事業を拡大し、いまではCRM以外の『ビヨンドCRM』の領域に進出している。セールスの言葉を外したforce.comのサービスをSaaS基盤として展開している。成長にあわせて、事業を拡大している。また、あらゆる業種、業態、規模の企業に対して導入実績を持ち、日本郵政株式会社では6万5000ユーザーが利用している」などとした。
同社では、セールスフォースによるCRMアプリケーションの提供、およびプラットフォームとしてのforce.comを提供。セールフォースでは、営業支援、マーケティング、サービス&サポート、代理店管理、モバイルなどのアプリケーションなどのサービスを利用できる。「年間3回のバージョンアップを行い、バージョンアップごとに100以上の新機能を、無償で提供している」という。また、force.comでは、インフラ、データベース、インテグレーション、ロジック、ユーザーインタフェース、アプリケーションエクスチェンジといった各階層が素結合する水平統合型のプラットフォームとなっており、その上で様々な機能をSaaS型で提供できるとした。
全世界の売上高は、創業以来、年率67%増で成長。日本では過去8年間に平均成長率が100%以上になっているという。「日本の高い成長率は、まだ分母が少ないということもある。だが、日本では、火がつくまでに時間がかかっても、一気に成長するという特性がある。SaaSはこれから一気に加速することになるだろう」とした。
宇蛇社長は、SaaSによって、法人向けシステム構築のアプローチ手法が増えたとする。
「これまでの法人向けシステムは、Make or Buyの選択肢しかなかった。だが、これに、SaaSモデルによる、Useという使い方が提案できる。MakeやBuyでは、大企業を中心としたシステムであったが、Useでは3~5人といった中小企業でも利用できる価格で提供され、さらに、機能は大企業に提供されるものと同じものが利用できるようになった。これを米国では、民主化という言葉で表現しているが、大企業も中小企業も、分け隔てなく同じものが利用できる環境が整った」という。
また、「SaaSは、世の中のすばらしいサービスと連携することで、利用できる機能が高度化する。さらに、開発期間が3分の1から、5分の1に削減される大幅なコスト削減効果がある。そして、圧倒的な企業の生産性向上を実現できる」とし、「セールスフォースは、グーグルとの提携や、帳票アプリケーションを提供する企業との連携で、サービスを拡張してきた。また、1年半、2年半かかる開発を3か月で実現したという例も山ほどある。細かな設定変更については、これまでのシステムでは1か月かかるものを5分で修正できる。SaaSの投資対効果は多くのユーザーで証明済みだ」とした。
一方、宇陀社長は、日本をはじめとする全世界のセールスフォース・ドットコムを導入している企業の事例を紹介。「デルは、ユーザーの声を集めることができるブログサービスのIDEASTORMを導入しているが、これは、デルと当社の経営トップ同士の話し合いで決まったもの。当社の高い顧客満足度は、ユーザーの声を聞く仕組みによるものであることを知り、それをデルが採用した」などと、SaaSが新たなサービス創出にも直結していることを示した。
なお、講演のなかでは、セールスフォースのデモストレーションを行い、同社の米カリフォルニア州サンノゼにあるデータセンターと結んだ利用シーンを見せたほか、「今日、お見せしたのは、私たちがお伝えしたい機能の100分の1程度にすぎない」としながらも、ダッシュボード機能による視認性の高さ、iPhone上でセールスフォースを稼働させる様子なども紹介した。
「今後は、日本の中小IT企業が、当社のプラットフォームを用いて、海外向けのITサービスを全世界に提供することができるようになる。日本が得意とするマルチファンクションプリンタや携帯電話に関連するサービスを新たなSaaSの形として輸出することもできるだろう」と、日本のIT企業にとって、新たなビジネスチャンスにつながる可能性についても触れた。