"所有"から"共有"へのパラダイムシフトを支えるASP・SaaS
増田寛也 総務大臣 |
ASP・SaaSイノベーション・シンポジウム2008(ASIS2008、主催・ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム)が、5月19日、20日の2日間、東京・秋葉原の秋葉原コンベンションホールで開催された。
初日の基調講演に登場した増田寛也総務大臣は、「日本は、世界最先端のネットワークインフラを有していながらも、それが生産性の向上に生かされ切れていない」とし、「人口減少下において、1人あたりの生産性向上を図ることは重要な課題である。生産性向上、効率化につなげるためには、ASPおよびSaaSの利活用が不可欠」と述べた。
また、増田大臣は、「ICT利用のあり方をパラダイムシフトしていく必要があり、日本が持つネットワーク力を生かせば、他社や他部門と連動したシステムが実現でき、共用可能な情報システムへとパラダイムが転換できる。それが、ASP・SaaSである」と、中小企業におけるASPおよびSaaSの利用が重要であることを示しなから、「中小企業においては、資金、ノウハウ、とくに人材が枯渇しているという課題に直面している。また、社外システムとの連携が弱いという実態がある。企業の業務改善、プロセス改善のためには、情報システムの活用が不可欠であるが、自分たちの既存の業務にあわせてシステム導入する例が多く、現状の業務をそのままシステム化しているに過ぎない。現状を変革するには、他者とのつながりを重点をおいたシステム改革が必要であり、業務改善をしっかり行うために適合したシステムの導入が重要である」とした。
増田大臣は、ICT投資とICT利用のパラダイムシフトを、これまでの「自ら所有するシステム、自ら作るシステム、カスタマイズしたソフトウェア」から、「利用(共有)するシステム、自らは作らないシステム、共用可能なソフトウェア」へ移行することだと位置づけた。
ASP・SaaSが普及するための課題
増田大臣はASPおよびSaaSが持つ課題にも触れた。
「ASP、SaaSは、初期のシステム投資を抑えられるというメリットがある。だが、導入している企業は12%に過ぎず、利用する予定がないと回答した企業が3割に達している。また、ASP、SaaSを知らないと回答した企業が4割を占めている。まずは認知度を上げることが急務である」とした。
総務省では、認知度向上施策のひとつとして、「ASP・SaaS安全・信頼性に係わる情報開示指針」をとりまとめ、利用者がASP・SaaS事業者を選択しやすいように、情報開示を行っている。また、4月からは同指針の具体的な活用策として、ASP・SaaS安全・信頼性認定制度を開始している。
「ASP・SaaS安全・信頼性認定制度では、先週金曜日(5月16日)に、8つのサービスを認定した。こうした制度があることを、各都道府県、各市町村に周知を図っているところである」とした。
さらに総務省では、「成長力強化への早期実施策」により、情報開示条件を満たすASP・SaaSの民間認定などを通じ、サービス普及を図る考えを示す。「中小企業の成長力全体の強化については、来月の骨太のなかで盛り込まれる予定だ」とした。
一方で、公的機関における「電子政府化」については「お寒い状況」とし、「政府自身が、部門ごとにバラバラのシステムを導入している。また、2010年度までに国に対する申請、届け出などのオンライン利用率を50%以上に引き上げるという目標に対しても、現時点では15%程度に留まっている。利用者にも、ご不便をおかけしていることを理解している。スピード感をもって是正していかなくてはならない。ここにASP、SaaSを利用することが有効であると考えている。地方公共サービスや、医療機関をはじめとする公的機関においても、どのSaaSが有効なのか、といった選択を容易にしていくことができるようにしたい」と、政府自らがASP、SaaSの導入に前向きであることに言及した。
もう一点、情報システムにおける課題としてあげたのが、企業ディレクトリ整備の重要性だ。
「現在、バラバラな企業コードを、ネットワーク上に企業台帳を構築することにより、一元的に媒介できるようにするとともに、取引ごとにID/パスワードを管理しないくてはいけないという現状を是正し、シングルサインオンによるIDおよびパスワード管理コストの削減を図ることが必要だ」とした。
政府では、電話番号を基盤にして、業界/業種横断で利用可能な企業コードの導入検証に取り組んでおり、ユビキタス特区事業において、メリットの可視化、実用化に向けた実証実験を開始している。「ここで効果があがれば、企業の相互連携が可能になるだろう」とした。
最後に増田大臣は、「いま日本は、ネットワーク力を生かして、ICT投資とICT利活用を変えることが求められている。その共通基盤として、ASP・SaaSの活用と、企業ディレクトリの整備が必要。期待を単に期待に終わらせるのではなく、世界最先端のICT利用国家を実現するために、各種施策を実施していく。2005年から人口が減少しており、企業の効率化を飛躍的に図っていかなくてはならない。中小企業の力を発展させることがグローバル競争力のためにも必要である。これを国民全体の共通の認識として浸透させたい」と語った。