富士通は、同社の最新技術、ソリューションの動向を紹介する「富士通フォーラム 2008」を東京・千代田区で開催している。基調講演には、黒川博昭社長が登壇。「フィールド・イノベーションを加速する~もっとお客様のビジネスへ~」と題し、ITの活用の仕方を変革して、顧客企業の事業に対する理解を深め、ビジネスにより焦点を当てようとする、同社の基本施策について語った。
フィールド・イノベーションとは、課題となる領域(フィールド)を設定、明確化し、ITを駆使することで、プロセスを変え、「人」を主役と考え、「人」の知恵を活かし、全体最適を実行し、企業のビジネスを革新するということを意味する。
ITだけをみていると、どのような結果につながるか。黒川社長はある地方銀行の営業店についての取り組みの例を挙げた。銀行側は現場を強くすることを目的に、営業店の改革を望んだが、富士通は、最新技術でネット対応を、というようにITを刷新することを考えており、思惑の相違があった。そこで、同社では、相互の行き違いを認識し、再度、練り直しをさせてほしいとの意思を銀行側に伝え、あらためて、統合的なフィールドを実施、店舗の現場の実態を検証、レイアウトなど、空間の分析から、事務量の調査・分析、人の立ち居振る舞いまでを視野に、人に注目した現場観察に基づく人間系調査による、質的分析までを実行した。その結果、業務中の離席、紙を中心とした作業が多く、事務処理は属人性が強い、といった実態が把握され、ITの適用以前に、業務環境の変革が必要であることがわかったという。
「IT化だけを促進しても、事務処理や運用そのものの改善をしなければ、新しいシステムの導入効果は十分に得られない。私が富士通に入社した1967年、40年くらい前には、皆、コンピュータというものにもっと謙虚に立ち向かっていたが、ITの高度化が進むにつれ、現場という考え方が軽視されるようになった。もう一度原点に返ろうというのが、富士通のフィールド・イノベーションだ」と黒川氏は話す。 。
イノベーションの提案をするからには「富士通自体もイノベーションをしなければならない。これまでは、富士通はITを担い、業務の改善などは顧客という姿勢が原則だった」(黒川社長)が、「富士通のイノベーションは、顧客のビジネスをよく理解し、どう作るか、から、何を作るか、に変える」(同)ことを目指す。そのためには。顧客と一緒に顧客のビジネスを考える人材を育成することが重要になる。「何を作るか」を担う、ビジネスアーキテクトは2006年から育成を始めており、3年間で300人にする予定だ。顧客視点で考え、課題を解決するフィールド・イノベータは、ものづくり、調達、営業、経理などの業務経験のある部長級の人材を選抜、2007年度は150人を富士通研究所に集め、2008年度には400人に増やす。「すべての営業要員やSEの意識を改革し、顧客のビジネスを理解できるようにしなければならない」(同)と同社では考えている。
「これからのサービスは、顧客のビジネスを強くするようなものをそろえていかなければならない。顧客の業務に適合した、迅速で、コスト競争力のあるサービスでなければならない」と黒川氏は強調する。サービスの提供の仕方には、当社のデータセンター対応するもの、顧客のところに出向いて対応するものとがあるが、いずれにせよ、「リアリティがなければいけない。業務サービスには、内部統制、事業継続、セキュリティ、デジタル・エンジニアリングなどさまざまなものがあるが、企画・設計から導入、運用というように、ライフサイクル全体にわたってサービスを提供すべきだ」と指摘する。
そして、現状の顧客のシステムを「進化型」に改革していくことを富士通は提案する。進化型の基本とは「見える。つながる。変化に強い」ことだという。まず、「型決め提案」では、顧客のシステム利用の局面を25ほど抽出し、目標とする水準を明確化、全体の最適化に向かうというものだが、黒川社長は、「もっと考えなければいけない」と語る。
同社がその先に考えているのは「段階的再編成」だ。現状は、複雑なシステム体系があり、全体像が見えにくくなっている。第1段階では「まず、リポジトリにより、全体を見える化する」。第2段階では、サービスバスで連携を見直し、というように進み、第3段階で、新しいシステムに移行する。
さらに、ここで「XML大福帳」との発想を提唱する。「現状のシステムは、会計、購買、製造、販売、在庫と、それぞれデータと処理が一体化して、サイロ化、連携がしにくくなっている。そこで、データと処理を分離してはどうかということだ。企業の事業活動から発生する、すべてのデータを時系列で、記録していく。XMLを用いれば、データフォーマットの差異は問われない。削除や更新はせず、あくまで追記していく。そこから、処理すべきデータを選択して処理する」
黒川社長は6月に退任することが決まっており、社長としての在任期間を回顧し「2003年に社長に就任したとき、何とか富士通を元に戻すので、支援をお願いしたいと発言した。支援のおかげで、富士通は皆さんのお供をしても、こけることのない状態になった。富士通は、お客様の役に立つ会社でなければならない。お客様起点で仕事を変えなくてはいけない。そういうことをきちんと引き継いでいきたい」と結んだ。