米IBMは15日(現地時間)、ワシントン大学の研究者たちと共同で、従来よりも収穫高、栄養価、病害虫への抵抗力を向上させた新しい稲の品種を開発するプログラムを開始したことを発表した。本来200年以上かかるとされるこのプロジェクトを、IBMのコンピューティンググリッド「World Community Grid」を活用することで2年以内に完了させるとしている。
世界規模での食糧危機への懸念が高まる中、同プロジェクトではコメを原子レベルで研究。コメのタンパク質とその機能に関する包括的なマッピングを行い、伝統的な交雑育種においてどの株を選択すればより良い作物を栽培できるか特定できるようにすることを最終的な目的としている。
コメの収穫高や病害虫への耐性にどのタンパク質が関わっているかを特定するためには、3万 - 6万種とされるタンパク質の構造を研究する必要があるという。この研究のために、ワシントン大学のコンピューター生物学者によって開発された3次元モデリングプログラムが、World Community Grid上で実行される。
World Community Gridは現在200カ国以上からの参加者により、100万台近いコンピュータを接続している世界最大規模の公的コンピューティンググリッド。167テラフロップスという演算能力を有し、これは世界のスーパーコンピュータ上位3機の処理能力に匹敵するという。公的な非営利組織のみが人道的研究に利用するシステムとして、これまでもアフリカの環境変化に関する研究や、HIV/エイズに関するプロジェクトなどが展開されている。
プロジェクトの首席研究員を務めるワシントン大学微生物学部の准教授、ラーム・サムドラーラ博士は、この研究について「研究室で行う従来の実験的アプローチを採用していては、とても時間がかかってしまいます。私たちが開発したソフトウェアをWorld Community Grid上で実行することにより、200年かかる研究を2年以内に短縮することができます」と述べている。
このプロジェクトにより、交雑育種に適した苗を選択し、栄養価が高く気候変動などに対する抵抗力を高めた「超ハイブリッド」品種のコメを作り出せるようになることに加え、タンパク質の3次元モデル構築で得た知識は、トウモロコシやコムギといったその他の穀物にも応用が可能だという。
World Community Gridは、インターネットに接続可能なコンピュータがあれば誰でも参加することができる(ユーザー登録が必要)。専用のアプリケーションによりアイドリング時にサーバからデータを得て演算処理を行い、その結果を送信する形となる。同社では今後も複数のプロジェクトを展開していく予定だとしている。