東京都の今年の硫化水素自殺者、20代が最多
東京都は12日、相次ぐ硫化水素自殺などへの対策を協議する「若者の自殺防止対策に関する検討会」の初会合を開いた。今年1月以降、東京都でも相次いだ硫化水素自殺の実態について関係団体から報告後、対策を話し合った。当初からの経緯を知る委員からは、「ネット情報とメディア報道の悪循環が悲劇を拡大した」と、早期対策の必要性を訴えた。
今回初会合が開かれた検討会は、硫化水素自殺が相次ぐ中、都が緊急に設置。青森大学社会学部教授の見城美枝子氏、テレコムサービス協会の事業者倫理・インターネット委員会委員長の桑子博行氏、警視庁ハイテク犯罪対策総合センター副所長の池田行雄氏ら13人の委員が出席した。
会合の前半では、東京都や全国における硫化水素自殺とその対策に関する現状が関係者から説明された。初めに、死因不明の急性死や事故死などで亡くなった人の死因を究明する東京都監察医務院の院長である福永龍繁氏から、東京都での硫化水素自殺の現状について説明があった。
東京都では今年に入り、1月に3人、2月に2人、3月に3人の硫化水素自殺があったが、4月には20人、5月には9日までにすでに4人の同自殺があった。年代別に見ると、全32人のうち、20代が最も多く19人で、30代が7人で続いている。また、20代、30代の自殺者26人のうち、半数の13人が無職だった。
メディアの過剰報道が、悲劇拡大の一因に
国や東京都では、急増する硫化水素自殺に関し、警察庁が4月30日、インターネット上で硫化水素の製造方法を示し、「簡単に死ねる」などと自殺を誘引する情報を「有害情報」に指定、ISPなどに削除を要請することを決め、全国の警察に通知。同庁の委託を受けてネット上の違法・有害情報の通報を受け付ける「インターネット・ホットラインセンター」が、同通知を受け、ISPなどへの削除依頼を現在行っている。
また、厚生労働省も、硫化水素自殺への対応について、都内の救急病院や都立病院などに治療法などを詳細に記した対応指示書の周知を行ったことを報告した。
これらの一連の事件と対応に関し、日本いのちの電話連盟常務理事で日本自殺予防学会理事長の斎藤友紀雄氏が、「事件の広がりの要因の一つに、マスコミの過剰な報道がある」と指摘。「単なる事件として報道するのではなく、相談先の電話番号を必ず表示するなど予防的、啓発的な要素を含めた報道をすべき」と問題提起した。
さらに、元NHKのディレクターで、自殺対策支援センター「ライフリンク」代表の清水康之氏が、「20代、30代の自殺者の半数が無職である事実は何を物語るか。自殺の手段ばかり強調されるが、自殺にいたる根本的な要因は何かに目を向けるべき」と話した後、硫化水素自殺が拡大した経緯を説明した。
3月初旬、掲示板に問題のスレッド出現
清水氏によると、3月初旬、ネット掲示板「2ちゃんねる」に、「練炭よりも簡単に死ねる方法が開発されました」という旨のスレッドが出現。その前後に大阪で硫化水素自殺で亡くなる人が出ていた。危険を察した清水氏は4日の厚生労働省の会議に出席し、「こうした書き込みが出ているから、危ない」と発言したが、国側の反応はなかった。
その後、ある大臣の秘書官を通じてインターネット・ホットラインセンターに同様の書き込みの削除を呼びかけたが、特に反応はなかった。「その後は、自殺報道がなされることによってネット情報も氾濫し、さらに自殺者が増えるという悪循環に陥った」(清水氏)。「早い時期に声を挙げても、対策につながらない現実をなんとかしなければならない」と訴えた。
また、日本自殺予防学会理事長の斎藤氏が再び発言。「硫化水素自殺を防止するには、洗剤や化粧品から簡単に硫化水素が発生しないような配合にすることが考えられる」と指摘。さらに、「硫化水素は『きれいに死ねる』と言われているが、実際は、ぎとぎとした粘土色になってしまう」と述べ、硫化水素による死を思いとどまるべきと述べた。
会合の後半は、「自殺者の個人情報などが対策検討のための議題となる」として、メディアに対しては非公開で協議が行われた。