MS買収撤回後、いったい誰がYahoo!株を買い上げているのか?

米Yahoo!共同創業者の2人。CEOのJerry Yang氏(左)と技術担当のDavid Filo氏(右)。International CES 2008にて

既報の通り、米Microsoftは5月3日(現地時間)に米Yahoo!に対して行っていた1株あたり31ドルでの買収提案撤回を発表した。週明け月曜日の5日には大方の予想通り、米Yahoo!株価は急落、時間外取引で一時は20%超の大幅下落となったが、最終的に同日の取引を15%安の24.37ドルで終えている。Yahoo!とMicrosoftの攻防は今後数週間で大詰めを迎えるとみられるが、その背後での動きや今後の展開について考察してみよう。

速報レポートの中で筆者はYahoo!株価が月曜日に急落すると述べていたが、その予想価格ラインは22 - 25ドル程度とみていた。それから考えれば、24.37ドルの終値というのはかなり高めの水準といえる。しかも本稿を執筆している5日夜の時間外取引ではすでに25ドルをオーバーする水準まで上がっている。英Reuters通信などが事前に報じた5日の下落幅は最高で30%超マイナスの20ドル未満の水準を予想しており、市場予想よりもかなり高めの水準で落ち着いたといって間違いない。5日朝は23.02ドルからスタートし、そこから徐々に買い上げが行われ、最終的に24.37ドルとなったことからも、市場でYahoo!株を買い集めている人物がいることがわかる。その理由はなぜか? 筆者の意見では、「Microsoftは必ずYahoo!を買収する」と考えている者が少なからずいるということだ。

Yahoo! vs. Microsoftを巡る2つのシナリオ

米New York Timesは「Who Is Buying Yahoo Shares Today?」という記事の中で同様の疑問を述べている。Yahoo!株を買い進めている者の思考として、そこで例に挙げられているのは

  1. 株主からのプレッシャーで遅からずYahoo!は再び交渉の席へと戻される
  2. Googleとの提携の見返りで金銭上の多大なメリットを受ける

といったものだ。だが一方で「Yahoo!が自力で事業を再建できる」と考えている株主を探すのは難しいだろうとも述べている。いずれにせよ、外的要因が再びYahoo!株価を上昇に転じさせるというのが共通見解のようだ。

1の場合のシナリオを考えてみよう。MicrosoftがYahoo!買収案を撤回するなか、同社CEOのSteve Ballmer氏がYahoo! CEOのJerry Yang氏に宛てた手紙の中で「Microsoftは買収提案額を1株あたり31ドルから33ドルへと引き上げて交渉に臨んだが、Yahoo!では1株あたり37ドルの価値があるといって譲らなかった」と述べている。2日金曜日の取引でYahoo!株価は28.67ドルで取引を終えており、翌月曜日には4ドル以上の下落を見せている。Yahoo!は37ドルを主張して提案を蹴った以上、そこまで自力で株価を引き上げなければならなくなった。少なくとも、Microsoftが最後に提示した33ドルの水準まで引き上げるのが大前提だ。前述のように現Yahoo!経営陣が自力でここまで株価を引き上げられると考えている株主はほぼいないと思われるため、経営陣に対して何らかの責任を追及するのは必然だ。

順番としては、まずMicrosoftとの交渉の場に再び着くことを求め、これが叶わないようであれば経営陣の解任動議を持ち出すだろう。Microsoftが依然としてYahoo!買収に興味を持っていることが前提だが、価格面や条件面での折り合いがつけば交渉がスムーズに進む可能性は高い。だが31ドルや33ドルといった好条件が再び提示されるかは未知数だ。

米Microsoft CEOのSteve Ballmer氏。2008年2月に米カリフォルニア州ロサンゼルスで開催されたイベント「Heroes Happen Here」にて

2だが、実はこれが周囲の最も恐れているシナリオだといえるかもしれない。Wall Street Journalなど複数のメディアは先週末、現在Yahoo!がGoogleとの提携交渉を進めていると報じている。これはGoogleの検索広告システムをYahoo!が導入するというもので、早ければ1週間内にも正式発表が行われる可能性があるという。

このニュースを好意的に解釈すれば、Yahoo!がGoogleのAdSenseを導入して売上効果や金銭上のメリットを得る一方で、Panamaやターゲティング広告システムの立て直しを図ることが可能になる。だがAdSenseがYahoo!のビジネスを破壊し、同社を単なる1コンテンツ企業に落とす危険性を秘めた諸刃の剣ともいえる取引だ。またAdSenseの導入でYahoo!の買収したOvertureの資産が死ぬ公算が強いため、Yahoo!の持ち味が失われるだけでなく、検索広告市場におけるGoogleの専制がより強まる結果にもなる。

前述のBallmer氏も、Yahoo!がGoogleの検索広告システムを試験導入している件について、Yang氏への手紙の中で不快感を述べており、MicrosoftのYahoo!買収の狙いがOvertureやPanamaといった広告システム資産にあることをうかがわせる。もしYahoo!がGoogleとの提携を強行した場合、同社の魅力は急速に衰え、MicrosoftがYahoo!買収そのものに興味を失ってしまうかもしれない。こうなるとMicrosoftの買収提案でYahoo!株価を引き上げる手法は使えなくなり、株主にとっては大きなデメリットだ。もしGoogleとの提携を1週間以内に発表するのであれば、Yahoo!株主らはその前にアクションを起こさなければならない。

買収攻防は短期決戦へ

クライマックスが近付いてきた両社の駆け引きだが、ここまではほぼ周囲の予想の範ちゅう内だろう。特に買収案撤回後など、Yahoo!経営陣に対して同社株主からのプレッシャーが与えられる構図は、まさにMicrosoftが期待していたものだったかもしれない。一方でYahoo!経営陣も不利な戦いであることは理解しており、その究極の対抗策がGoogleとの提携の可能性だ。

上下する株価と提携交渉のタイムリミットのなかで、決着は比較的短期になるものとみられる。Yahoo!株主らは今週中にも何らかのアクションを起こす可能性は高く、その場合1 - 2週間内にも再びMicrosoftとの交渉が再開されるか、あるいは役員解任が実行されるかもしれない。Jerry Yang氏ほか、同氏と共同でYahoo!を設立したDavid Filo氏もそのターゲットにされるとみられ、中核メンバーの解任動議がそのままMicrosoft買収のトリガーとなる。