米Microsoftが設定した米Yahoo!買収の交渉期限(米国時間の4月26日)を過ぎたが、両社からは合意に関する発表は出てこない。買収の撤回またはMicrosoftが敵対的な買収に移る可能性が高まっている。米Yahoo!は買収提案を完全に拒否していたのではなく、"今後"の長期的な戦略に基づいた適正な評価を求めていた。過小評価すぎるので上乗せしろ……というのだ。一方Microsoftは、すでにYahoo!の"現在"の市場価格を大きく上回る提案を行っていると主張しており、この両社の間の溝が埋まらなかった形になる。
Yahoo!の主張する"長期的な戦略に基づいた成長"とは、昨年後半から一部の投資家などに説明している3カ年計画である。Web 2.0 Expoにおいて同社は、その中核となるインターネットプラットフォーム戦略「Y! OS(Yahoo! Open Strategy)」を発表した。奇しくも同イベントではMicrosoftが「Live Mesh」を初公開しており、インターネットプラットフォーム戦略に対する両社のアプローチの違いは、合併効果を示すと共に視点のズレも際立たせた。
Yahoo!の"OS"戦略とは
Y! OSは、ここ最近のYahoo!のオープン戦略を体系化したものであり、Yahoo! というネット上で最大級のコミュニティをターゲットにした開発者の自由な活動をサポートするプラットフォームになる。Yahoo!というと、ソーシャルネットワーキングサービス「Yahoo! 360」が低迷し、一時はFacebook買収が現実味のある噂になっていた。CTOのAri Balogh氏はソーシャルネットワークを次世代のYahoo!のカギとして挙げ、その上で「われわれは新たなソーシャルネットワーキングを作ろうとしているのではない、Yahoo!の利用体験全体を、すべての面からよりソーシャルなものに再構築する作業を進めている」という。さらに「われわれはソーシャルを最終目的地とは考えていない。これまでの研究を通じて、ユーザーがネットで過ごす様々な面にソーシャルネットワークが反映されるべきという結論に達した」と述べた。
Yahoo! Mailにソーシャルグラフを反映させた例。Mailのウエルカム画面に特に関係性の強いユーザーからのメッセージが優先表示される |
Yahoo! Sportsにソーシャルグラフを反映させた例。ひいきにしているチームのニュースやファンタジーフットボールのトレード情報などが表示される |
Balogh氏の説明では「アプリケーション・プラットフォーム」と「ユーザー&ソーシャル・プラットフォーム」がY! OSの構成要素となる。Yahoo!は、これまで検索やメールサービスなど25以上のサービスのAPI公開を公開してきた。これをさらに推し進めると共に、第3者が開発したアプリケーションをYahoo!のデータセンターでホスティングして実行可能にする。ユーザー&ソーシャル・プラットフォームは、招待やプレゼンス、ソーシャルメッセージングなど、ソーシャルネットワークの要素をYahoo!のサービス全般に取り込み、Yahoo!ユーザー同士の密な結びつきを実現する。Yahoo!は、3月25日にGoogle主導で開発・公開されたソーシャルネットワーク技術仕様「OpenSocial」への参加を表明しており、Y! OSのソーシャルネットワーク機能はOpenSocialに準拠したものになる。
Yahoo!はY! OSに基づいたAPI公開の第1弾として、サードパーティによるYahoo!検索のカスタマイズを可能にする「SearchMonkey」の限定ベータテストを開始した。Balogh氏によると、今年後半にはオープン戦略プラットフォームの1.0バージョンを提供できる見通しだという。その段階で、サードパーティの開発者はYahoo!ユーザーのソーシャルグラフを利用したアプリケーション開発が可能になるという。
現実に即したMSと将来を語るYahoo!
Y! OSのプロジェクトは、MicrosoftがYahoo!に買収提案を行う以前からJerry Yang氏体制の下で進められていたという。Yahoo!の現在の戦略は検索ポータルとしてスタートした時と同様、ネットユーザーの起点になることであり、オープン化/ソーシャル化は今後数年にわたって年間約15%のビジターの伸びを実現する手段になると期待している。
このようにYahoo!がネット全体の中における役割を確立しようとしているのに対して、MicrosoftのLive Meshは各ユーザーのデバイス登録を結ぶ"個"を中心としたクラウドソリューションだ。Microsoftにとってもソーシャルネットワーキングサービスの活用が課題のひとつになっているものの、Live MeshはY! OSほどソーシャルネットワークを意識していない。これらの点から両社が融合すれば、インターネットプラットフォーム戦略においては相乗効果が期待できるように思える。
Web 2.0 Expoでは、インタビューセッションに登場したMarc Andreessen氏(Mosaic開発者)はMicrosoftによるYahoo!買収について、「合意に達すれば、双方が大きなものを得る取引になると思う」とコメントしていた。ただし「起業家としては、(Yahoo!のように)長く成功を重ねてきた会社が独立運営でなくなるのはさびしいことだ。だが、これも長い目で見れば自然な進化の一部なのだろう」とも付け加えた。Live Meshが今日のPCユーザーの問題を解決する現実的なソリューションであるのに対して、Y! OSはより将来的なネット利用体験を焦点にしている。ここに現在の市場価値でYahoo!を評価するMicrosoftと、将来の可能性を語るYahoo!の違いが現れている。ただ株主や投資家が現実と可能性のどちらを評価する傾向にあるかは自明の理である。