デジタル化、ネットワーク化が進むコンテンツ流通に対応した著作権制度を議論する政府・知的財産戦略本部の新調査会「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」は24日、第1回会合を開いた。会合では現在の著作権法に関し、「著作者の権利を守るだけではなく、権利者と利用者を調整する役割を果たすべきではないか」などの意見が出た。
知的財産戦略本部では昨年度、「コンテンツ・日本ブランド専門調査会」と「競争力強化専門調査会」の2つの専門調査会を開き、それぞれにおいてデジタル化、ネットワーク化に対応した著作権制度の在り方について議論を進めてきた。今回新しく設けた専門調査会では、これらの議論を統合した形で議論を進める。
第1回会合では、弁護士で西村あさひ法律事務所顧問の中山信弘氏を会長に選出した後、事務局から提示された以下の論点に基づいて議論が行われた。
- デジタル・ネット社会における著作権制度の役割をどのようにとらえるべきか。
- デジタル・ネット社会の進展の中で著作権制度が不適合を起こしている点はどこにあるか。またその具体的な問題はどこに生じているか。
論点1については、立教大学法学部准教授の上野達弘氏から、「著作者の権利を憲法上の基本権に由来するとした上で、著作者と利用者を調整する役割を担うものとして著作権制度をとらえる考え方もある」と新しい著作権制度の在り方について提案があった。
これに対し、日本総合研究所法務部長の大谷和子氏は、「CGMなどによって利用者が著作者になるケースも多くなっていることや、他者の模倣を原点としながら新しい創造を行ってきたという歴史を考えると、新しい著作権制度が著作者と利用者の調整を行う役割を担うべきという上野氏の考えは非常に共感できる」と述べた。
駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授の苗村憲司氏も、「創作者の権利を最大限に尊重すべきという自然権的アプローチよりも、社会全体の活力向上を重視する文化政策的アプローチをとるべき」とした上で、どんな方法で著作物を公表するか決めることができる現在の公表権について、「インターネット特区のようなものを設けた上で、従来のメディアへ公表する公表権と、ネット上に公表するかどうかを決めることのできるネット公表権の2つに分割してはどうか」と提案した。
また、弁護士の上山浩氏は、「新規サービス事業者がどんどん参入できる競争を促進する制度を作る事が重要」とした上で、「技術的進歩の速度に法制度がついていけないネットビジネスの世界を発展させるには、著作権者に無断で著作物を利用していても、その利用がフェアユース(fair use)に該当するものであれば、その利用行為は著作権の侵害を構成しないという、フェアユースの規定を著作権法に設けるしかないのではないか」と主張した。
新調査会では、5月に開かれる第2回、第3回の会合でこれらの議論を深めた上で、6月に同本部が発表する「知的財産推進計画2008」に盛り込むことを目指している。また、6月以降は月1回程度会合を開き、年末をめどに取りまとめを行うとしている。