弥生 代表取締役社長 岡本浩一郎氏

弥生は、4月1日付けで、岡本浩一郎氏が同社代表取締役社長に就任したのにあわせ、新たな事業戦略を発表した。

同社は、2007年9月、MBKパートナーの出資を得て、ライブドアグループから分離独立。事業戦略の全面的見直しを進めてきた。4月からの新体制により、成長戦略を描く考えで、今回の会見では、今後、SaaS事業を同社の新たな柱へと育てていく方針を明確に示した。

社長に就任した岡本氏は、野村総合研究所でのシステムエンジニアとしての経験を持つとともに、ボストンコンサルティンググループにおける経営コンサルタントとしての実績がある。今回が社長就任以来、初めての公式の場ということもあり、岡本社長は自らの経歴に触れ、「13歳からプログラムを書き始め、パソコン雑誌のテクニカルライターとしての経験もあり、オタクの走りともいえる。野村総研では、基幹系メインフレームのシステムエンジニアとして、ボストンコンサルティンググループでは、大規模システムのコンサルティングを経験し、さらに、コンサルティング会社のリアルソリューションズを起業し、そのときには、弥生のユーザーでもあった。エンジニアであり、経営のプロであり、起業家でもある。こうした経験を弥生の成長の原動力にできればと考えている」とした。

また岡本社長は、「弥生の使命は、日本における中小企業、個人事業主、起業家の事業の立ち上げと発展を支える社会的基盤(インフラ)であること」とし、中長期的にビジョンとして、「中小企業、個人事業主、起業家の事業のインフラになるべく圧倒的なマーケットリーダーになること」を掲げた。

「常にお客様のことを考えている会社にしたい。社長に就任して、社員に対しての第一声は、お客様のために、なにができるのかをもっと考えて欲しい、ということ。これまでの弥生でも取り組んできたテーマだが、もっとやっていかなくてはいけない。ソフトおよびサービスの品質に徹底的にこだわる」とした。

中小企業や起業家のITインフラとして、弥生が位置づけられるためには、PCソフト基準から基幹システム基準へと進化させた「ソフトウェア品質の向上」、SaaSによる「新技術への取り組み」が重要とし、「SaaS対応を段階的に進め、将来的には事業の柱を目指す」とした。

SaaS対応では、1年目をパイロット時期とし、経済産業省が推進するプロジェクトに参画することで、既存アプリケーションのSaaS対応を図るほか、2年目を立ち上げ期として、経費精算、出退勤管理などの周辺アプリケーションによる新規SaaSアプリケーションの開発および立ち上げに着手。展開期となる3年目には、SaaSアプリケーションのバージョンアップを図り、現行のパッケージシステムと同等レベルのものにしていくという。

弥生のSaaS事業参入計画

また、SaaSへの展開に関しては、技術上の観点から他のIT企業との連携も検討していく考えを示したほか、弥生ビジネスパートナー(YBP)や、税理士など加盟するPAP(Professional Advisor Program)との連携も図る予定だという。

「SaaSは万能ではなく、そのメリットにも賛否があるが、中小企業が中心となる弥生の顧客にとっては、SaaSによるメリットの方が大きいと考えている。本業に集中できる環境の実現、セキュアな環境が実現できる。また、これまでの顧客層プラスαの領域を狙うことも可能になる。SaaS事業は、小さく生んで、大きく育てていく」とした。

一方、ユーザーターゲットとして、起業家の支援、既業家の自計化促進を柱とし、「とくに、起業家を徹底的に支援していきたい。弥生によって、起業準備から起業、決算に至るまで、起業家のニーズにあわせて、きめ細かくサポートする」とした。

また、同社では、新サービスとして、「一般仕訳相談サービス」「福利厚生サービス」を開始する予定であることを明らかにした。

弥生 取締役副社長 五月女尚氏

五月女尚取締役副社長は、「ユーザーからの要望で一番多いのが、税務や仕訳に関する相談。毎月1,000件近い要望と問い合わせがある。だが、税理士法上、税務および仕訳相談には応じられないため、ユーザーを落胆させている。しかし、一般仕訳サービスであれば、一定の条件下で実施できる可能性があることがわかった。現在、税務当局に税理士法における独占業務の範囲について最終確認を行っている。すでにカスタマセンター内に、仕訳相談を受けるための専門チームを、有資格者により配置できる準備を整えており、確認がとれ次第、すぐにサービスを開始できる。開始すれば業界初のサービスとなる」という。

また、「福利厚生サービス」は、個人企業では難しい福利厚生の各種サービスを、サービス提供会社の協力を得て実施するもので、「レジャーや健康診断、冠婚葬祭時の一時金の対応、資格取得に向けた補助金などの福利厚生サービスを弥生ユーザーに提供する。中小企業ユーザーからニーズが高いサービスであり、少額で対応できるようにする。今期中には導入し、弥生09製品発売時の新メニューとして用意する」とした。

ユーザからの問い合わせが多かった2つのサービスを新たに展開

福利厚生サービス

一般仕訳サービス

なお、同社では、岡本社長体制へと移行したのにあわせて、新組織体制を発表。製品開発およびマーケティング機能を持つ製品本部(本部長・岡本社長)、営業を担当する営業本部(本部長・相馬一徳常務取締役)、カスタマセンターでの対応をはじめとする各種サービスを担当する顧客サービス本部(本部長・五月女副社長)、人事・総務・財務・経理を担当する管理本部(本部長・五月女副社長)の4本部制とした。

弥生の新組織体制

また、カスタマセンターは、大阪と、昨年5月に開設した札幌の2カ所に設置しており、今後、札幌のカスタマセンターでの増床を予定。現在、同センターに設置している100ブースを、年末には200ブースに拡大する。これにより、サービス体制の強化を図るという。

今後の拠点展開

札幌は増床予定

左から、五月女尚取締役副社長、岡本浩一郎社長、相馬一徳常務取締役