全世界で14万人もの従業員を抱えるMicrosoft。同社の社内IT部門を統括するCIO、Tony Scott氏のもと、情報セキュリティ、インフラ設計・運用を担当するJim DuBoisジェネラルマネージャが来日し、Microsoftが実際に利用しているIT環境について説明した。その中でDuBois氏は、次期OS「Windows 7」(コード名)のベータテストを6月から社内で実施することを明らかにした。同社がこうした情報を日本で明らかにするのは「おそらく初めてのこと」(マイクロソフト執行役 日本・アジア担当最高情報責任者・鈴木協一郎氏)という。

Jim DuBois氏

鈴木協一郎氏

14万人を抱えるMS、ほとんどのPCがVistaに

一般的な企業でも社内のIT環境を担当する部門はあるが、それをMicrosoft内で担当しているのがDuBois氏だ。Microsoftでは、社員やベンダーを併せて14万人という人員を抱えている。世界103カ国、550カ所の拠点があり、社員の持つPCやモバイル端末など60万台のデバイス、サーバ1万台、データセンター3カ所、それを運用する運用センター1カ所という陣容だ。

全世界のMicrosoftのIT環境

社内では1日に600万通のメールがやりとりされ、外部からは2,000万通のメールが到着している。そのうち、97%が迷惑メールだという。サーバなどのストレージは5ペタバイトにものぼり、社内の業務アプリケーションは2,300、リモート接続は1カ月あたり100万件などといった環境になっている。

Liveサービスなどの外部向けには13万台のサーバで運用、ユニークユーザ数は4.35億人、1日のページビューは2,800億、1日のメールは120億通、1日のIM数は60億などとなっている。

IT予算の状況。ちなみに「ドッグフード」とは、社内のベータテスト予算のことで、昔から同社内で使われていた言葉のようだ

MicrosoftではこれらほぼすべてをWindows Serverで運用。相互運用性の確認や、Mac製品の開発部門など一部を除けばMicrosoft製品を活用しているという。すでに14万人が利用するPCはほぼ100%Windows Vistaに置き換わっているそうだ。

社内IT投資先は「人」

同社のIT投資は現在、新規プログラム向けに52%、既存のプログラムの維持・管理に48%という割合になっている。DuBois氏は維持・管理コストを今後順次削減していき、「新規プログラムへの投資を60%以上」(DuBois氏)にまで拡大していきたい考え。

投資内容としては「人」に79%、「データ・音声」「ハードウェア」にそれぞれ7%、「設備」に5%、「ソフトウェア」に2%というコスト配分になっている。ソフトウェアに関しては、Microsoft製品を「購入したとした場合」は4%になり、Microsoft以外の企業だとしてもソフトウェア予算は「それほど大きな支出にはなっていない」(同)。

DuBois氏が率いるIT部門では、社内のIT環境構築に加えて、もうひとつ大きな役割がある。DuBois氏が「Microsoftの最初で最良の顧客」と表現するとおり、同社製品をまず社内に展開し、最初にテストするのだという。

例えばWindows VistaやOfficeの最新版はベータ1から一部で展開を開始、ベータ2、RC1、出荷版と4段階にわたって展開していった。細かいバージョンアップを加えれば、Vistaでは7回にわたって順次展開していったそうだ。

とくにVistaの導入に当たっては、最初の3カ月間で社内のヘルプデスクへの問い合わせ数が10%近く増加したそうだが、その後は従来どおりの数に落ち着いたという。展開における最大の問題は「デバイスドライバの互換性」(同)だったそうだ。

同社のVistaとOffice展開の流れ

同部門は新製品を「本番環境で最初に使う」(同)顧客として導入。製品改善のために開発部門にフィードバックも行う。こうしてVista展開の経験を積み、展開のベストプラクティスを顧客に提供できるようになっているのだという。以前はこうした取り組みはしていなかったそうだが、これによって開発部門が「顧客のフィードバックに耳を傾けるようになった」(同)そうだ。

サーバ環境に関してもWindows Server 2008を導入。とくにクラスタリングの設定が簡素化された点が「気に入っている」そうで、DuBois氏のチームでは「私(DuBois氏)でさえクラスタリングの設定ができる」(同)といわれているそうで、それだけ設定が簡単だとアピールする。もっとも気に入っているのは仮想化で、「コスト削減に大いに役に立つ」という。現在、Windows Server 2008の仮想化機能(Hyper-V)はRC版だが、Microsoft社内では本格的に展開しているようで、物理的なサーバを仮想化することでスペースや消費電力の削減などのコストメリットがあるという。こうした点は環境面での効果も期待できるそうだ。

Windows Server 2008については、NAP(Network Access Protection)が機能としては問題ないものの、設定が煩雑な点を問題視。ただ、Windows Server 2008の次のリリースで設定がさらに簡素化していく意向だ。

またMicrosoftでは、管理作業を中央集中型にして世界でひとつのチームが維持管理を担当することなどで、4年前と比べて1億ドルのコストを削減してきたということだ。

Windows 7が6月からベータテスト

DuBois氏は、同社のIT部門が「最初で最良の顧客」であり、新製品の導入をいち早く進める立場にあるとして、次期Windows OSである「Windows 7」についても早くからベータテストを行うことを明らかにした。

その中でDuBois氏は、「6月から社内のベータテストを行う」と話した。実際の製品登場は現時点では2010年の見込みだが、早々に社内のベータテストを実施する形だ。