IBMは10日(現地時間)、スピントロニクス技術を用いることで、フラッシュメモリの高性能と信頼性、HDDの低コスト性と大容量を併せ持つことが可能な不揮発性メモリ技術「racetrack」の原理と成果について発表した。
racetrackは、ワイヤを競技用トラック(track)と見立て、その上をデータが駆け巡る(race)ことから、名付けられたメモリ技術。電子スピンを用いてデータを格納し、1個の読み取り素子(MTJ)を用いて10~100ビットの情報を読み取ることが可能だ。
同メモリ技術は、Siウェハ表面に垂直または水平に配列された磁性材料(レーストラック)の列に情報を格納するために磁区(スピンが同じ方向を向いた領域)を用いる。列内にはレーストラックに沿って、反対方向に磁化された領域を磁壁(磁区の境界)で線引きされ、それぞれの磁区は両端にNとSの磁極を形成し、レーストラック内にNとSの磁極を持つ磁壁が交互に形成される。連続する磁壁の間隔(ビット長)は、レーストラックに沿って作成されたピン止めサイトによって制御されることとなる。
今回発表された論文の内の1つ「Current Controlled Magnetic Domain-Wall Nanowire Shift Register」では、従来、磁壁の操作には大量の電力が必要としていた問題について、スピン偏極電流(スピンの方向のそろった電 流)と磁壁との相互作用の結果生じるスピン移行トルクを利用することで解決できるとしている。
また、ニッケル鉄合金(Ni81Fe19)の細線を使用し、適切な長さのナノ秒長のスピン偏極電流パルスを用いて、連続的に磁壁の書き込み、シフト、読み出しを実証しており、磁壁の書き込みとシフトのサイクルタイムは20~30nsとしている。