グリーンITに注力、環境問題に焦点
富士通は2008年度の研究開発方針と強化施策、知的財産戦略を明らかにした。中長期の新しい事業領域の創出を目指し、「グリーンテクノロジー」「センサテクノロジー・システムソリューション」「次世代端末&サービス」の3つに焦点を当てていく意向だ。省電力化や小型化など環境に配慮したIT機器や、環境負荷を低減する効果があるソリューションなど、「グリーンIT」には特に注力する。
同社はすでに、2007-2010年度の4年間で累計700万トン以上の二酸化炭素排出量を削減することを目標とする、「Green Policy Innovation」を策定している。ソフト・サービスの面でのIT活用による環境負荷低減で630万トン、省電力技術など、ITインフラの環境負荷低減で76万トンをそれぞれ削減していく計画だ。
このような施策の具体化の1つとして同社は、光ファイバーを用いた温度測定手法を基盤に、多数の発熱源があるデータセンターの温度分布を正確に、リアルタイムに測定できる温度測定技術を開発したと発表した。この技術により、1本の光ファイバーで1万カ所以上の温度を同時に測定することが可能となり、温度分布の「見える化」を実現でき、空調制御システムを組み合わせることにより、室内の温度分布に柔軟に対応できる。また、空調設備の調節が可能となり、データセンターの省エネ化につなげたい考えだ。
二酸化炭素排出量の削減の一助となる、エネルギー消費量低減化への実効策として、データセンターの問題が大きく浮上しているわけだが、同社によれば、データセンターでの電力消費の内訳は、IT機器が45%で最大となっている一方、空調も40%を占めており、空調に何らかの対策を講じることがデータセンターの省エネに大きな効果をもつことになる。
データセンター内の冷却装置は不可欠だが、単純に冷房を継続すると、過剰に冷却される部分が出てくるため、空調を最適化するには、温度分布を正確に把握することが必要になる。今回の技術が開発された背景には、このような状況があった。
同社は今後、温度分布の検出能力をさらに精細化するとともに、温度分布情報を用いた空調運転最適化手法を検討、2009年度までに、空調エネルギー管理に向けた基本技術を確立することを目指す。
センサ技術で、新ビジネス領域開拓へ
「センサテクノロジー・システムソリューション」は、電子機器の知覚機能であるセンサの技術を利用してソリューション製品を構築することが狙いで、センサが計測したデータを収集、加工し、活用する。たとえば、飲料メーカーがレストランなどの飲料の保存場所に温度センサを設置、一定の品質維持のための温度制御に用いたり、あるいは、これらの温度データを製造ラインにフィードバックするしくみを全体ソリューションに取り込む--といったものが考えられる。
富士通研究所 村野和雄社長 |
同社の研究、開発の拠点である富士通研究所を率いる村野和雄社長は「ITの領域は基本的にはデジタルの世界にあるが、ITの裾野をさらに広げていきたい。デジタルとリアルワールドをつなぐのが、センサテクノロジーだ」と指摘、最終的には、この技術を新しいビジネスの創出に結びつけることを図る。実際の事業化にあたっては、同社グループの企業、関連企業との協力を考えているが、それに留まらず、ベンチャーを含め、外部企業との連携も視野に入れている。
「次世代端末&サービス」では、「パソコンや携帯電話に飽和感があるなか、新しいサービスと絡めて考えていきたい」(村野社長)という。たとえば、同社はすでに一部の携帯電話端末に歩数計を搭載しているが、多くの人々が常時、電源を入れた状態で、いわば身に着けている携帯電話に健康状態を監視する機能が設けられれば、健康管理のサービス、ソリューションへの展開の可能性が考えられる。これは、センサテクノロジーの応用についての言及で、村野社長が触れたことだが、次世代端末&サービスへのヒントでもある。
積極的な特許申請とともに、標準化活動も推進
富士通 加藤幹之 経営執行役 法務・知的財産権本部長 |
知的財産戦略では、事業の競争優位性、事業の自由度、事業収益、これら3つの確保が軸となる。富士通の加藤幹之 経営執行役 法務・知的財産権本部長は「知的財産の尊重は、富士通の行動規範」としたうえで、「知的財産をいかに経営に活かしていくかが重要になる。知的財産は世の中、市場に知らしめ、利用してもらわなければならないわけだが、情報通信の世界では、ただ1社だけの技術だけでは製品はできない。どのように互いの技術をうまく使っていけるようにするか、この点も重要」と話す。
知的財産を競争力強化、収益に結び付けるには、特許の持つ意味が非常に大きくなるが、一方では、技術の標準化もまた必須要因となる。知的財産の保護、活用と、標準化戦略との均衡的な連携が求められる。同社では、今後の無線通信技術の担い手の1つとして期待されるWiMAXに注力しているが、この分野での技術について、米国、カナダ、欧州など海外の研究開発拠点と一体となって特許出願活動をしており、国内外あわせて100件以上の出願をしている。また、標準化活動では、WiMAXの標準化団体「WiMAXフォーラム」に同社は、設立時からボードメンバーとして参画している。
村野社長は、これからの研究開発機関のあり方について、以下のように述べた。
「20世紀までは、サイエンスとエンジニアリングの統合が、さまざまな成果をもたらしたが、21世紀には、これらだけでは不十分かもしれない。今後は、技術を活かすビジネスモデルが大きな鍵となり、また、企業には、社会的責任、社会的な課題への対応が要求される。サイエンス、エンジニアリング、ビジネスモデルの発想、社会的責任、この4つがあって、21世紀型の研究所となる」