「ダビング10実施に向けたボールはメーカー側にある」。文化庁の私的録音録画小委員会の2008年度第1回会合が終わった翌日となる4日、日本音楽著作権協会(JASRAC)らの権利者団体が合同で会見を開き、現状の認識について説明をした。実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は、権利者側が文化庁の調整案について「受け入れる方向で一歩降りた」と話し、建設的議論を進めるためにメーカー側への真摯な対応を求めた。
ダビング10開始に当たっては、権利者側とメーカー、消費者らが私的録音録画小委員会を舞台に長く協議を続けてきた。権利者側には、私的録音・録画を認める代わりに対応機器に課金していた補償金制度が「機能していない」(日本音楽作家団体協議会・小六禮次郎氏)という不満があったが、音楽CDからの録音と無料デジタル放送からの録画に関して従来どおりの補償金制度を維持するということなどを決めた文化庁の調整案(「著作権保護技術と補償金制度について(案)」)に同意している。
これについては、「収拾がつかないまま何年も経った」(同)議論を収拾するための「段階的結論」(同)という評価で応じたという。コピーワンスという主張から「一歩降りて」ダビング10を認めたことに対する「権利者側の譲歩」との見方について椎名氏は、「消費者の利便性が失われず、権利者にも不利益が発生しないなら大いに結構で妥協でも挫折でもない」(同)と話す。
ダビング10に関しては「諸手を挙げて賛成したわけではなく落としどころの妥協案」と日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏。DRMが進歩して権利者が広くあまねく対価が得られる状況であれば補償金は「当たり前のことだが廃止する」という前提だが、そうした技術がまだ確立されていないため補償金制度の存続を訴える。
これは、メーカー側の電子情報技術産業協会(JEITA)がコピーワンスに関連して私的録画補償金制度を否定する見解を公表したことを念頭に置いた発言で、「ダビング10がスタートするなら、この案(調整案)をないがしろにはできない」と、調整案どおりの運用が始まることを求めている。椎名氏も、補償金がない運用になった場合はダビング10の延期を求めていく意向を示している。
権利者側では、小委員会の2008年度第1回会合においてJEITA側から補償金制度の見直しについて「真摯に検討したい」という発言があったことを高く評価。調整案で得られた合意を「権利者側も大事にし、メーカー側も大事にし、次のステップに入るところにきた」(JASRAC菅原瑞夫氏)として、さらなる議論の深まりに期待を示している。
調整案では、現行の補償金制度を縮小し、DRM技術によって録音録画をコントロールし、それに沿った契約を結ぶことで対処する方向性が打ち出されている。これにより複製に確実な課金ができることで、補償金制度は不要になるという考え方だ。
音楽CDと無料の地デジ放送に関してはこの対象から外して補償金制度を継続するということになっているが、調整案の中でも補償金制度の選択肢を否定しておらず、将来的に合意が得られれば補償金制度を存続させる余地を残している。
こうした点についても権利者側は評価。椎名氏はDRMによって複製が制御され、課金されることに対して消費者が補償金制度のほうを望む可能性も指摘し、今後も補償金制度についての議論を深めていく方向性を示した。
また権利者団体は従来どおり、iPodなどの音楽プレイヤーやHDDレコーダー、次世代DVD、PCといった現行の補償金制度外の機器についても対象に含めるよう求めていく。録音・録画の専用機器だけでなく、PCのような汎用機についても「どれだけ録音・録画に使われているか」という案分で課金する案を示しているが、対象機器を選定する評価機関の設置も認める方向だ。
いずれにしても、権利者側は膠着していた議論を進展させるためにダビング10を認める形で「一歩降りた」。次はメーカー側がダビング10を合意どおりに実施するということで「ボールはメーカー側にある」(椎名氏)という認識だ。
今回の会見は、JASRACや実演家著作隣接権センターをはじめとする著作権関連団体全89団体によるもの。こうした合同の会見は今回で5回目となる。